S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 よって『常務が迎えにきたから』という理由で仕事を投げ出すことも、同僚に負担をかけることも、紗夜にとってはありえないこと。

 少しでも長く一緒にいたい、と思ってくれる和季の気持ちはありがたいが、それとこれとは話がまったく別なのだ。

 しかし峰木は紗夜の使命感よりも、和季の鋭い視線の方が気になるらしい。

「邪魔だなんて言ったら、先輩、後で怒られるのでは……?」
「聞こえてないから、大丈夫」
「聞こえてるぞ、深田」
「!」
 
 和季を放置して峰木とこそこそ話し合っていると、急に彼が会話の中へ混ざってきた。

 もちろん距離が距離なので、紗夜も和季にまったく聞かれていないとは思っていなかったが、急に割り込んでくるとも思わなかったのだ。しかも――。

「峰木だっけ? ずいぶん紗夜と距離が近いんじゃないか?」
「え。……いえいえ、そんな……!」
「あまりべたべた近づかないでくれ」

 紗夜の肩を後ろから掴んで自身の腕の中へ抱き寄せた和季が、敵意を剥き出しにして峰木を威嚇する。

 以前も峰木を激励した直後に突然態度を変えて不満を口にしていたが、あのときは峰木本人ではなく、紗夜へ文句を言っていたのだ。

 なのに今回は本人に、しかも直前まで『深田』と呼んでいたのにいきなり『紗夜』と呼び変えて、ストレートに抗議している。

< 297 / 304 >

この作品をシェア

pagetop