S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 紗夜と和季のやりとりが聞こえたのだろう。紗夜の背後で、一人の青年がサッと席を立つ。

「いいですよ、深田先輩。俺がやっておきますから」
「! 峰木くん……」

 紗夜に声をかけてきたのは、頼れる後輩の峰木だった。

「常務を待たせるわけにはいかないでしょう」
「え……えっと……」

 峰木の質問に、紗夜も一瞬たじろいでしまう。

 たしかに『一般社員』が『常務取締役』を待たせるなどあってはならないことだが、それはあくまで業務中の話だ。

 見たところ和季はすでに仕事を終えており、ここから常務執務室へ戻る予定はないと見受けられる。つまりここへやってきたのは、このあとのプライベートの時間を一分でも多く紗夜と過ごすため。

 しかしすでに仕事を終えている和季と違い、紗夜はまだ勤務時間中なのだ。

「あと少しで終わるから、平気だよ」
「え……でも……」
「常務が社員の仕事の邪魔をするの、どうかなって思うし」
「ちょ……深田先輩……!」

 あくまで仕事の完遂を優先しようとする紗夜に、峰木があからさまに青褪める。

 だが紗夜は和季と再び交際をすると決めたとき、そして和季が紗夜との関係を社内であっさり暴露したときにも『仕事とプライベートは完全に分ける』と固く心に誓っていた。

 立場のある人と特別な関係を持つ以上、公私を混同して周りに迷惑をかけたり、変に気を遣わせてしまうことだけは絶対にしたくない、と考えていたのだ。

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