S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
「明里常務」
「!」
和季に見下ろされて蛇に睨まれた蛙のようにたじろぐ峰木と、二人の間で困惑するしかない紗夜にとっての、救世主が現れる。
声がした方へ三人同時に振り返ってみると、そこににこにこ笑顔の経理課長、増井が立っていた。
「深田さんが可愛くてしょうがない気持ちはわかりますが、職場では仕事とプライベートを分けてください」
増井の鋭い諫言に、和季が言葉を詰まらせる。彼の一言で、和季も自分の言動が大人げないこと、経理課の社員を委縮させかねないことを理解したらしい。
急に静かになった和季に、増井がさらに大きめの釘を刺す。
「深田さんを待つなら、ラウンジかリフレッシュルームでお願いしますね」
「え、いや……!」
「出禁にしますよ?」
「……。……すまない、気をつける……」
(和季さんより、増井課長の方がつよい……)
笑顔の奥にある圧力に屈したのか、それとも昔から世話になっている増井に紗夜との関係を認めてもらえないのは困る、と考えたのか、和季が素直に折れて紗夜の肩からそっと手を離す。
課長が常務を部署出禁にするなど聞いたことがないが、最低でも週に一回は紗夜を迎えに経理課までやってくる和季にとっては、効果てきめんだったらしい。
尊敬する上司の増井を頼もしいと思う反面、この人だけは絶対に怒らせてはいけない、と感じる紗夜だった。