昨日、僕を殺したのは誰ですか

第六章 犯人を忘れる町

第六章 犯人を忘れる町

 「美月!」

 蓮は走った。

 夜の住宅街。

 息が切れる。

 肺が痛い。

 それでも、

 止まれなかった。

 電話は切れたまま。

 美月へかけ直す。

 呼び出し。

 一回。

 二回。

 三回。

 出ない。

「くそっ……!」

 後ろから足音。

「神谷君!」

 栞。

 その後ろに三上。

 悠真。

 そして、

 昨日生まれたという、

 もう一人の神谷蓮。

「先に行って!」

 栞が叫ぶ。

「言われなくても!」

 家。

 見えた。

 玄関。

 灯り。

 ついている。

 蓮は門を開ける。

「美月!」

 玄関。

 鍵。

 開いている。

 ドアを開ける。

「美月!」

 返事。

 ない。

 リビング。

 灯り。

 テレビ。

 ついている。

 母。

「……母さん?」

 香織が、

 ソファに座っていた。

「蓮?」

 額。

 傷。

 ある。

 細い痕。

 第五章の写真と同じ。

「母さん」

「どうしたの、そんなに慌てて」

「美月は!」

「美月?」

 母が首を傾げる。

 蓮の体が止まった。

「……何」

「誰?」

 ◇

「母さん」

「何?」

「美月」

「だから」

 香織は困った顔をする。

「誰のこと?」

 蓮の耳から、

 周りの音が消えた。

「娘」

「……」

「母さんの娘だよ」

「私の?」

「俺の妹!」

 香織。

 ゆっくり笑う。

「蓮」

「何」

「あなた」

 一拍。

 「一人っ子でしょう?」

 ◇

 階段。

 蓮は駆け上がる。

「美月!」

 廊下。

 妹の部屋。

 そこにある。

 ドア。

 いつもの。

 プレート。

 ない。

「……」

 開ける。

 部屋。

 机。

 ベッド。

 クローゼット。

 全部ある。

 でも。

 違う。

「何これ」

 本棚。

 自分の漫画。

 机。

 古いパソコン。

 壁。

 自分の小学生時代の写真。

 完全に。

 蓮の部屋になっている。

「嘘だろ」

 後ろ。

 栞たちが来る。

「神谷君」

「美月の部屋だった」

「……」

「ここ」

 蓮は机を指す。

「この机」

「美月が使ってた」

「このベッドも」

「このカーテンも!」

 三上が室内を見る。

「でも」

「先生?」

「俺には」

 言いづらそうに。

「最初から」

 一拍。

 「神谷の部屋に見える」

 ◇

「先生まで?」

 栞。

 三上は額を押さえる。

「いや」

「違う」

「何が」

「美月って名前」

「覚えてる」

 蓮。

「じゃあ!」

「でも」

 三上。

「この部屋を見た瞬間」

「ここは神谷の部屋だって」

「頭が勝手に」

 悠真。

「俺も」

「……」

「美月は覚えてる」

「でもこの家」

 周りを見る。

「昔から」

「蓮と母さんの二人暮らしだった気もする」

「ふざけんな!」

「俺だって混乱してんだよ!」

 栞。

「待って」

「何」

「私」

 一人。

 部屋の中央。

「ここ」

 床。

 指差す。

「何か見える」

「何?」

「線」

 ◇

 床板。

 薄い。

 白い線。

 四角。

 まるで、

 机の脚が長年置かれていた痕。

「ここ」

 栞。

「机があった」

「美月の」

「たぶん」

 蓮はしゃがむ。

 床。

 小さな傷。

 文字。

「……」

 鉛筆。

 薄い。

 みづき

「残ってる」

 蓮。

「美月はいた」

 三上。

「物理的な痕跡までは」

「完全に消えてない」

「じゃあ」

 悠真。

「まだ間に合う」

 ◇

 その瞬間。

 クローゼット。

 コン。

 全員。

 止まる。

「……」

 コン。

 コン。

 蓮。

「美月?」

 クローゼットへ。

 手。

 取っ手。

「待って」

 栞。

「何」

「誰か」

「……」

「中にいる」

 蓮が開ける。

 暗い。

 服。

 段ボール。

 そして。

 奥。

 一人。

 膝を抱えている少女。

「美月!」

 ◇

 美月。

 震えている。

「お兄ちゃん」

 蓮が近づく。

「大丈夫?」

「来ないで」

「え?」

「どっち」

 美月は蓮を見る。

 その後ろ。

 もう一人の神谷蓮。

「……」

「どっちが」

 一拍。

 「お兄ちゃんなの?」

 蓮は振り返る。

 もう一人。

 同じ制服。

 似た顔。

 ただし。

 少し違う。

「俺」

 蓮。

「こっち」

「証拠は?」

 美月。

「……」

「私の誕生日」

「五月二十二日」

「好きなアイス」

「チョコミント」

「嫌いな食べ物」

「ピーマン」

「小学校の時」

「……」

「私が転んで泣いた公園」

「中央公園」

「何色の滑り台」

「赤」

 美月。

 もう一人を見る。

「そっちは?」

 少年。

「全部同じ」

 そして。

 同じ答えを、

 一つずつ言った。

 美月の顔。

 青ざめる。

「……」

「やっぱり」

「二人とも」

 一拍。

 「お兄ちゃんの記憶がある」

 ◇

 蓮は少年を見る。

「お前」

「俺の家族の記憶まで」

「持ってる?」

「うん」

「いつから」

「最初から」

「昨日作られた時?」

「そう」

「じゃあ」

 蓮。

「美月をどう思う」

 少年。

 少しだけ黙る。

「妹」

 蓮の胸。

 ざわつく。

「本気で?」

「うん」

「……」

「僕にとっても」

 少年。

「大事」

 蓮は拳を握る。

 怒りたい。

 偽物だと言いたい。

 でも。

 言えなかった。

 少年の顔が、

 嘘をついているようには見えなかったから。

 ◇

「美月」

 栞。

「さっき」

「誰がドアの前にいたの?」

 美月。

 震える。

「お兄ちゃん」

「どっちの」

「分からない」

「顔は」

「今のお兄ちゃん」

 蓮。

「俺?」

「でも」

「何」

「額に」

 一拍。

 「傷があった」

 全員。

 止まる。

「額?」

 蓮。

「母さんと同じ?」

「うん」

「母さんも」

「その人も」

 美月。

「同じ場所に傷」

 栞。

「印?」

 三上。

「もしくは」

「別の記憶に属する人間の特徴」

 ◇

 美月。

「そのお兄ちゃん」

「何て言った」

「開けてって」

「それだけ?」

「あと」

「……」

「帰ろうって」

「どこに」

「分かんない」

「それから」

 美月は思い出す。

「私」

「返事しなかった」

「うん」

「そしたら」

「……」

 『三十四番は返事をしない』

「そう言った」

 蓮の背中が冷える。

「三十四番」

 十七年前。

 雨宮栞。

 三十四番。

 今回。

 不足要素候補。

 神谷美月。

「0組」

 蓮。

「美月を」

「雨宮の代わりにする気だった?」

 栞。

「記憶保持補助者」

 三上。

「神谷蓮を覚えておく役」

「だから」

 蓮。

「俺の妹?」

 悠真。

「一番強く覚えてる可能性がある」

 ◇

「違う」

 もう一人の蓮が言う。

 全員が見る。

「何が」

「美月は」

「補助者じゃない」

「じゃあ何」

 少年。

「鍵」

「鍵?」

「たぶん」

「何の」

 少年は自分の頭を押さえる。

「分からない」

「でも」

「記憶がある」

「どんな」

「桐島」

「……」

「昨日」

 少年が目を閉じる。

「美月を見て」

 一拍。

 『この子だけは対象にするな』

「って言ってた」

 ◇

「桐島が?」

 三上。

「なぜ」

「分からない」

 少年。

「でも」

「誰か別の人が」

「桐島に」

「……」

 『この子がいないと全員戻れない』

「そう言った」

 蓮。

「誰」

「顔」

「思い出せない」

「声は」

「女」

 栞。

「母親?」

「違う」

「じゃあ」

 少年。

「若い」

「高校生くらい」

 全員。

 栞を見る。

「……私?」

 栞。

 少年。

「似てる」

「でも違う」

「十七年前の雨宮栞?」

「たぶん」

 ◇

 母。

 階下。

「蓮?」

 声。

「誰かいるの?」

 蓮。

 美月を見る。

「母さん」

「私のこと」

 美月。

「忘れてる?」

「……今は」

「うん」

 美月。

 少しだけ笑う。

「そっか」

「大丈夫」

「嘘」

「……」

「顔に書いてある」

 蓮は何も言えない。

 美月。

「お兄ちゃん」

「何」

「私」

「消えるの?」

「消させない」

「でも」

「絶対」

 蓮。

 「お前は俺の妹だ」

 美月は黙る。

「俺が覚えてる」

「雨宮も」

「先生も」

「悠真も」

「みんな」

 三上。

「覚える」

 悠真。

「もちろん」

 栞。

「私も」

 もう一人の蓮。

「僕も」

 美月。

 その少年を見る。

「……二人分?」

「たぶん」

 少しだけ。

 笑いが生まれた。

 ◇

 だが。

 その瞬間。

 玄関。

 ピンポーン。

 全員。

 止まる。

 母。

 一階。

「はーい」

 蓮。

「待って!」

 階段。

 駆け下りる。

 母が玄関を開ける。

「こんばんは」

 男の声。

 蓮。

 止まる。

 玄関。

 警察官。

 二人。

「神谷香織さんのお宅でよろしいですか」

「はい」

「少し」

「確認したいことがありまして」

 蓮。

「何ですか」

 警察官。

 蓮を見る。

「君は?」

「息子です」

「名前」

「神谷蓮」

 警察官二人。

 一瞬。

 顔を見合わせる。

「……神谷蓮?」

「はい」

「何ですか」

 一人が手帳を見る。

「いや」

「その名前」

 一拍。

 「今日、失踪届が出ています」

 ◇

「誰の」

 蓮。

「神谷蓮さん」

「俺ここにいるけど」

「年齢は」

「十七」

「違います」

「何が」

 警察官。

「届出の対象者は」

 一拍。

 「四十六歳の男性です」

 蓮の心臓が跳ねる。

 父。

「誰が届けた」

「ご家族」

「誰」

 警察官が香織を見る。

「奥様」

 蓮。

 母を見る。

「母さん?」

 香織。

「……」

 困惑。

「私?」

「本日午後八時頃」

「神谷蓮さんが帰宅しないと」

「あなたから」

「いや」

 香織。

「そんな電話してません」

 警察官。

「ですが」

「記録があります」

「声も確認済みです」

 ◇

 蓮。

「額」

 母を見る。

 傷。

 ある。

「母さん」

「何?」

「今日」

「警察に電話した?」

「してない」

「絶対?」

「絶対」

「じゃあ」

 別の母。

 傷のない母?

 それとも。

 傷のある今の母が、

 記憶を失っているだけ?

「失踪した神谷蓮」

 三上が玄関へ。

「写真ありますか」

「あなたは?」

「学校の教員です」

 警察官。

 少し迷い。

「家族の方が持っているはずですが」

 蓮。

「母さん」

「父さんの写真」

「……」

「ある?」

 香織。

 顔をしかめる。

「父さん?」

 また。

 忘れている。

「俺の父親!」

「蓮」

「あなたのお父さんは」

 一拍。

 「ずっと前に亡くなったでしょう?」

 ◇

「……」

 蓮。

「さっきまで行方不明だった」

「何言ってるの」

「母さん!」

 警察官。

「少し落ち着いて」

「落ち着けるかよ!」

 三上が蓮の肩を掴む。

「神谷」

「でも!」

「今は」

「情報を聞け」

 蓮。

 息。

 整える。

「……すみません」

「失踪届」

「四十六歳の神谷蓮」

「写真は」

 警察官。

「署のデータなら」

 スマートフォン型端末。

 確認。

「これです」

 画面。

 一人の男性。

 四十代。

 蓮。

 顔。

 違う。

「……誰」

 栞。

「神谷君に似てない」

 悠真。

「父親の写真とも」

「違う」

 三上。

「でも」

 蓮。

「見たことある」

 どこ。

 どこで。

 十七年前。

 集合写真。

 窓。

 桐島。

 違う。

 黒く消えた男。

 違う。

 パンフレット。

「……神谷廉一郎」

 ◇

 写真。

 四十六歳の男性。

 顔。

 神谷記念館。

 創設者。

 神谷廉一郎の若い頃の肖像に、

 似ている。

「まさか」

 三上。

「同じ人?」

「年齢が」

 蓮。

「合わない」

 でも。

 この町では。

 年齢が合わないことは、

 もう異常ではない。

「失踪した場所」

 蓮。

「分かります?」

 警察官。

「最後に確認されたのは」

 一拍。

 「この学校です」

 ◇

「何時」

「昨夜」

「九月二日?」

「はい」

「時間」

「午後十一時四十七分」

 全員。

 凍りつく。

「23:47」

 蓮。

 自分が学校へ入った時間。

「防犯カメラ」

 三上。

「映っていた人物を」

「俺だと思ってた」

 警察官。

「学校から提供された映像では」

「四十六歳の神谷蓮さんが」

 一拍。

 「門をくぐっています」

「違う」

 蓮。

「映像には俺が」

「君?」

「俺でした」

「……」

 警察官。

「確認しますか」

 端末。

 映像。

 23:47。

 校門。

 一人。

 画面。

 蓮は息を呑む。

 そこにいたのは。

 四十六歳の男。

「……」

 昨日。

 何度見ても。

 自分だった。

 今。

 別人。

「映像まで」

 栞。

「書き換わった」

 ◇

 警察官。

「この男性」

「ご存じでは?」

 蓮。

「……」

「分かりません」

「でも」

 警察官。

「失踪届には」

「あなたとの関係」

「……」

 『父』

「と記載されています」

 蓮の体。

 固まる。

「俺の」

「父?」

「はい」

「届けた母さんは」

「夫だと」

「はい」

 現在の母。

 隣。

 首を横に振る。

「知らない」

「私」

「こんな人知らない」

 ◇

 警察官たちが帰った後。

 リビング。

 全員。

 沈黙。

 美月も降りてきた。

 母は。

 彼女を見るたび。

 困惑した顔をする。

「この子」

「誰なの?」

 そのたび。

 蓮。

 胸が痛む。

「美月」

「俺の妹」

「母さんの娘」

「……そう」

 数分後。

「この子誰?」

 また。

 忘れる。

 ◇

「進行が速い」

 三上。

「数分で」

「美月の存在認識が消えてる」

 栞。

「でも」

「私たちは覚えてる」

 悠真。

「地下に入った人間だから?」

 蓮。

「それだけじゃない」

「警察」

「何?」

「四十六歳の神谷蓮」

「……」

「町の記録に」

「突然追加された」

 三上。

「父親の復元が」

「始まった?」

「たぶん」

 栞。

「でも」

「なんで顔が神谷君のお父さんじゃないの」

「それ」

 蓮。

「神谷蓮って名前に」

「いろんな人が入ってる」

「だから」

「復元しようとしても」

 一拍。

 「誰を戻すのかシステム自身が分からない」

 ◇

 悠真。

「じゃあ」

「四十六歳の男」

「誰なんだ」

 三上。

「神谷廉一郎に似てる」

 栞。

「原型?」

「違う」

 蓮。

「もっと別」

 スマートフォン。

 検索。

 町のニュース。

 神谷蓮。

 何も出ない。

「警察記録だけ?」

 その時。

 悠真。

「待って」

「何」

「俺」

 検索画面。

「神谷蓮 失踪」

 結果。

 一件。

 古い記事。

「十七年前?」

「違う」

 日付。

 九年前。

「九年前?」

 開く。

 地域ニュース。

 市内で男性会社員が失踪

 名前。

 神谷蓮(37)

「同じ」

 三上。

「年齢」

「今46なら」

「九年前37」

「同一人物?」

 蓮。

「じゃあ九年前にも消えてる」

 記事。

 数日後。

 無事発見

「戻ってる」

 栞。

「どこで」

 記事。

 学校付近

 ◇

 さらに検索。

 十二年前。

 神谷蓮(34)。

 失踪。

 数日後発見。

 十四年前。

 神谷蓮(32)。

 失踪。

 発見。

 悠真。

「何回消えてんだ」

 三上。

「全部」

「この学校の周辺」

 蓮。

「毎回」

「戻ってる」

 栞。

「同じ人?」

「写真」

 記事ごと。

 違う。

「顔が違う」

 ◇

 十二年前。

 丸顔の男。

 十四年前。

 細身。

 九年前。

 神谷廉一郎に似た男。

 同じ名前。

 同じ年齢推移。

 なのに。

 顔が違う。

「記録だけ」

 蓮。

「一人の人生として繋げられてる」

 三上。

「中身が」

「入れ替わってる」

「それ」

 栞。

「今の神谷君と同じ」

 ◇

 悠真。

「住所」

「全部同じ?」

 記事。

 非公開。

 三上。

「古い電話帳なら」

「学校の資料室?」

「いや」

「市立図書館」

 蓮。

「行く」

「今から?」

「まだ開いてる?」

 時計。

 午前一時。

「無理」

 栞。

「明日」

 蓮。

「それまで」

 美月。

 見る。

「美月を」

「守る」

 ◇

 母。

 その夜。

 何度も。

 美月を忘れた。

 蓮たちは、

 紙に書いた。

 神谷美月はあなたの娘です。

 リビング。

 壁。

 冷蔵庫。

 スマートフォン。

 でも。

 数分後。

 母。

「このメモ誰が書いたの?」

 さらに。

 写真。

 消える。

 家族写真。

 美月の部分だけ。

 背景になる。

「……」

 美月。

 それを見る。

「すごいね」

「何が」

「本当に」

 一拍。

 「私、いなくなってる」

「見るな」

 蓮。

 写真を伏せる。

「でも」

「見なくていい」

「お兄ちゃん」

「何」

「私が全部消えたら」

「消えない」

「もし」

「言うな」

「でも」

「言うなって!」

 美月。

 黙る。

 蓮。

 少しして。

「……ごめん」

「ううん」

「絶対」

「戻すから」

「うん」

 ◇

 午前三時。

 誰も寝ない。

 三上。

 ソファ。

 資料。

 栞。

 美月の横。

 悠真。

 窓際。

 もう一人の蓮。

 廊下。

 蓮は。

 父親の失踪記事を見ていた。

 十四年前。

 十二年前。

 九年前。

 そして。

 今日。

「周期」

 呟く。

「何?」

 悠真。

「間隔」

「十四年前」

「十二年前」

「九年前」

「今回は」

「バラバラ」

「でも」

 日付。

 全部。

 九月。

「九月一日から三日」

 三上。

 顔を上げる。

「十七年前も」

「九月」

「今回も」

 栞。

「毎回」

「新学期」

 蓮。

「学校が」

「名簿を更新する時期」

 ◇

「名簿」

 三上。

「出席」

「転入」

「クラス」

「そう」

 蓮。

「0組が動く条件」

「学校の名簿が確定する時?」

 悠真。

「でも会社員の神谷蓮まで」

「学校に関係ない」

「名前が」

 栞。

「学校に登録されたままなんじゃない?」

「何」

「神谷蓮という名前自体が」

「……」

「この学校の0組に」

 一拍。

 「ずっと在籍してる」

 ◇

 十七年前。

 神谷蓮 在籍開始――十七年前

 そう表示された。

 でも。

 原型の資料。

 昭和。

 もっと前。

「在籍開始」

 蓮。

「俺のことじゃなかった」

 三上。

「何?」

「神谷蓮って名前が」

「十七年前に」

「今の学校の名簿へ」

「正式登録された」

「その前は」

「研究対象」

 栞。

「十七年前から」

「生徒名になった」

「だから」

 蓮。

「ずっと二年生?」

 ◇

 全員。

 止まる。

「二年生」

 悠真。

「十七年前の失踪した生徒も」

「二年」

「今の蓮も」

「二年」

 栞。

「私も」

「二年」

 三上。

「0組も」

「二年生相当の名簿」

「じゃあ」

 蓮。

「毎回」

 一拍。

 「神谷蓮は高校二年生として作り直される」

 ◇

「でも父親は46歳」

 悠真。

「外へ出た後」

「歳を取った?」

 三上。

「そして一定期間で」

「学校へ戻る」

「次の神谷蓮を作るため」

 蓮。

「父さんが消えたの」

「俺が小学生の時」

 年齢。

 計算。

「その頃」

「俺が」

「神谷蓮になった?」

 栞。

「記憶ある?」

 蓮。

「……」

 ない。

 普通に。

 ずっと。

 神谷蓮だった。

 でも。

 幼稚園写真。

 高城悠真と書かれていた。

「小学生の途中」

 蓮。

「名前が」

「入れ替わった」

 悠真。

「俺と」

「たぶん」

 ◇

 午前四時十二分。

 玄関。

 コン。

 全員。

 顔を上げる。

 コン。

 コン。

 母。

 眠っている。

 美月。

 栞の隣。

 玄関。

 誰か。

 いる。

 蓮。

 静かに近づく。

「誰」

 返事。

 ない。

「桐島?」

 沈黙。

「父さん?」

 玄関の向こう。

 一言。

 「違う」

 男の声。

 蓮。

 鍵。

 開けない。

「誰」

『昨日』

 男。

『屋上にいた』

 蓮の心臓が跳ねる。

「どの」

『神谷蓮じゃない』

「……」

『倒れていた方だ』

 ◇

 全員。

 玄関へ。

 栞。

 顔色。

 変わる。

「嘘」

 蓮。

「雨宮?」

「声」

「知ってる?」

「昨日の」

 栞。

「屋上にいた人」

「消えた男?」

 栞。

 頷く。

「でも」

「写真から消えた」

 男。

 ドアの向こう。

『消えた』

『だから来られた』

「意味分かんない」

『ここは』

 一拍。

 『忘れられた人間が入りやすい』

 ◇

 三上。

「名前は」

 沈黙。

『ない』

「元の名前」

『覚えてない』

 蓮。

「神谷蓮?」

『違う』

「じゃあ」

『俺は』

 男。

 一拍。

 『犯人だった』

 ◇

 蓮の背中。

 冷たくなる。

「何の」

『十七年前』

「……」

『一人消えた』

 三上。

 顔。

 凍る。

『俺が消したことになってる』

「先生の友達?」

『違う』

「雨宮栞?」

『……そうだ』

 栞。

 息を呑む。

「十七年前の雨宮を」

「あなたが?」

『そう』

「どうやって」

『覚えてない』

「なんで」

 男。

『犯人だから』

「意味分かんない」

『この町では』

 一拍。

 『犯人から先に忘れられる』

 ◇

 静寂。

「犯人から?」

 三上。

『事件が起きる』

『人が消える』

『でも』

『誰がやったかを』

『みんな忘れる』

「証拠は」

『消える』

「記録」

『変わる』

「本人は」

『最後には』

 一拍。

 『自分が何をしたか忘れる』

 蓮。

 昨日。

 記憶。

 消した。

「俺と同じ」

『そうだ』

「じゃあ」

「昨日の事件も」

『犯人はいる』

「誰」

『それを思い出したら』

 男。

 『今度はそいつが消える』

 ◇

「開けて」

 栞。

「雨宮?」

「顔」

「見たい」

「危険」

「でも」

 栞。

「十七年前の私を」

「知ってるかもしれない」

 蓮。

 迷う。

 三上。

「チェーンだけ」

 玄関。

 少し。

 開ける。

 隙間。

 男。

 四十代くらい。

 制服ではない。

 顔。

 ぼんやり。

 見える。

 でも。

 目を離すと。

 特徴が思い出せない。

「……」

 蓮。

「顔」

『覚えようとするな』

「なんで」

『頭が拒否する』

 三上。

「名前」

『思い出せない』

「十七年前」

「三上智也を知ってる?」

 男。

 先生を見る。

『……』

 長い沈黙。

『三上』

「俺を?」

『知ってる』

 三上。

「お前」

「誰だ」

『友達だった』

 ◇

 三上。

 動けない。

「俺の」

「友達?」

『たぶん』

「でも」

「十七年前に消えた友達は」

『俺じゃない』

「……」

『俺は』

 一拍。

 『そいつを消した犯人だ』

 三上の表情。

 崩れる。

「じゃあ」

「俺は」

「お前を忘れた?」

『町全体が』

「なぜ」

『犯人だったから』

「誰がそんな仕組みを」

『0組』

 蓮。

「0組は記憶を作る場所」

『そう』

「なら犯人を忘れるのも」

『作られた記憶だ』

 ◇

 男。

『事件が起きる』

『本当の記憶では』

『犯人がいる』

『でも』

『三十三人に』

『別の記憶を与える』

「どんな」

『犯人はいなかった』

『事故だった』

『最初からその人はいなかった』

 栞。

「そうやって」

「事件自体を消す?」

『そう』

 三上。

「なぜ」

『研究を守るため』

「誰から」

『外から』

「警察?」

『警察』

『保護者』

『町』

『全部』

 ◇

 蓮。

「だから」

「町全体が犯人を忘れる」

『正確には』

「何」

『学校から始まって』

『家族』

『地域』

『最後に行政記録』

「……」

『七日で』

 栞。

 七日。

 自分の削除期間。

「同じ」

『同じ仕組みだ』

 ◇

「十七年前」

 蓮。

「雨宮栞を消した」

「何が起きた」

 男。

 目を閉じる。

『思い出せない』

「少しでも」

『屋上』

「……」

『写真』

「……」

『三十三人』

「……」

『そして』

 男。

 震える。

『雨宮栞が』

「何」

『叫んだ』

「何て」

 長い沈黙。

 『犯人は神谷蓮じゃない』

 ◇

 現在の栞。

 顔を上げる。

「十七年前の私が?」

『そう』

「じゃあ」

 蓮。

「神谷蓮が疑われてた?」

『たぶん』

「誰が本当の犯人」

『……』

 男。

 苦しそうに頭を押さえる。

『俺』

「名前」

『……』

「思い出して」

『無理だ』

「一文字でも」

『……』

 三上。

「待て」

「何です?」

「俺」

 男を見る。

「呼んでた」

『やめろ』

「昔」

『三上』

「お前を」

『やめろ!』

 三上の口。

 動く。

「……さ」

 男。

『言うな!』

「さ?」

 蓮。

 三上。

「佐……」

 ◇

 照明。

 家中。

 一斉に消える。

 真っ暗。

 美月。

「お兄ちゃん!」

「ここ!」

 玄関。

 男。

『来た』

 蓮。

「誰」

『桐島じゃない』

「じゃあ」

 外。

 道路。

 複数。

 足音。

 ゆっくり。

 近づく。

 三上。

「警察?」

 窓。

 悠真が見る。

「違う」

「何がいる」

「人」

「何人」

「……たくさん」

 ◇

 街灯。

 下。

 人々。

 近所。

 見覚えのある顔。

 隣の家。

 コンビニ店員。

 犬の散歩をしている男性。

 学校の生徒。

 数十人。

 全員。

 蓮の家を見ている。

「何これ」

 栞。

 美月。

「怖い」

 蓮。

「母さん!」

 香織。

 リビング。

 立っている。

 そして。

 窓の外を見ている。

「母さん?」

 香織。

 静かに。

 玄関へ歩く。

「どこ行く」

「開けなきゃ」

「何を」

「外」

「なんで」

 母。

 一拍。

 「犯人がいるから」

 ◇

「誰」

 蓮。

 母。

 玄関の隙間。

 忘れられた男。

 指差す。

「この人」

 男。

 一歩。

 後ずさる。

「母さん」

「知ってるの?」

「知らない」

「じゃあなんで犯人って」

「分からない」

 香織。

 困惑。

「でも」

 一拍。

 「この人が悪い人だって分かる」

 ◇

 男。

『始まった』

 三上。

「何が」

『記憶補正』

「……」

『俺を』

『犯人として固定する』

 蓮。

「本当に犯人だったんだろ」

『十七年前は』

「じゃあ」

『でも』

 男。

 『今夜の犯人じゃない』

「今夜?」

『美月を消そうとしてる犯人』

「誰」

『町は』

『本当の犯人を忘れる代わりに』

『別の誰かを犯人にする』

 栞。

「身代わり?」

『そう』

 ◇

「じゃあ」

 蓮。

「十七年前も」

「あなたが」

「本当に犯人だったか」

 男。

 沈黙。

『分からない』

「……」

『俺自身も』

『そう思い込まされているかもしれない』

 三上。

「そんな」

『だから』

 男。

 『犯人を名乗る奴を信じるな』

 蓮の頭。

 昨日の自分。

 写真。

 神谷蓮が、殺した。

 もう一人。

 自分。

 犯人。

「最初から」

 蓮。

「全部」

「誰かを犯人にするための」

「記憶?」

 ◇

 外。

 人々。

 一斉に。

 玄関へ。

 一歩。

 近づく。

 母。

「警察呼ばないと」

 三上。

「もう来る」

 パトカー。

 遠く。

 音。

 男。

『俺は行く』

 蓮。

「待て!」

『ここにいたら』

『お前たちまで』

『俺を犯人だと思い始める』

「そんな」

 悠真。

「もう」

 顔をしかめる。

「何」

「俺」

 男を見る。

「なんか」

「こいつが」

 一拍。

「全部やった気がしてきた」

 栞。

「私も」

 三上。

「……」

 蓮。

 男を見る。

 確かに。

 心。

 奥。

 こいつが犯人だ。

 理由もないのに。

 そう感じる。

「これが」

『記憶補正』

 ◇

 男。

『神谷蓮』

「何」

『昨日』

『お前も』

『同じことをされた』

「……」

『誰かを犯人だと思わされた』

「誰」

『思い出せ』

「分からない」

『屋上』

『三人のお前』

『雨宮』

『高城』

『もう一人』

「誰」

 男。

『お前が』

 一拍。

 『一番疑わなかった人間』

 ◇

 蓮の頭。

 映像。

 昨日。

 屋上。

 雨宮。

 三人の蓮。

 倒れている男。

 悠真。

 そして。

 誰か。

 背中。

 制服ではない。

 白衣でもない。

「誰」

 映像。

 声。

『蓮』

 聞き慣れている。

 優しい。

『大丈夫』

「……」

『全部忘れれば』

『また家族に戻れるから』

 蓮。

 目を見開く。

「……母さん?」

 ◇

 現実。

 香織。

 玄関。

 こちらを見る。

「蓮?」

 いつもの声。

「どうしたの」

 額。

 傷。

「母さん」

「何?」

「昨日」

「学校来た?」

 香織。

「行ってない」

「本当に?」

「当たり前でしょう」

「夜勤だった?」

「……」

 香織。

 止まる。

「昨日は」

 一拍。

 「家にいたでしょう?」

 記憶。

 また。

 変わった。

 ◇

「先生」

 蓮。

「母さん」

「昨日」

「屋上にいたかもしれない」

 三上。

「根拠は」

「思い出した」

「顔は」

「見てない」

「声だけ」

 栞。

「傷」

「何?」

「額の傷」

「昨日の屋上で」

「傷のある人を見た?」

 栞。

 目を閉じる。

「……」

「雨宮」

「待って」

 記憶。

「いた」

「誰」

「女の人」

 蓮。

「母さん?」

 栞。

「顔は」

「暗くて」

「でも」

 一拍。

 「額に傷があった」

 ◇

 香織。

 顔。

 固まる。

「何の話?」

 蓮。

「母さん」

「昨日」

「俺に何した」

「何も」

「父さんを戻さないでって」

「俺が言った」

「知らない」

「桐島を知ってる?」

「知らない」

「0組」

 母。

 瞳。

 一瞬。

 揺れる。

「……何それ」

 蓮。

「今」

「反応した」

「してない」

「母さん」

「知らないって!」

 ◇

 その瞬間。

 額の傷。

 香織が押さえる。

「痛っ」

「母さん?」

 傷。

 赤くなる。

 でも。

 流血のような描写はなく、

 古い傷跡が浮き上がるように濃くなる。

 香織。

「何」

「これ」

「私」

 鏡。

 見る。

「傷なんて」

 一拍。

 「なかったのに」

 ◇

 美月。

「お母さん」

 香織。

 振り返る。

 今度は。

「……美月?」

 全員。

 止まる。

「母さん」

 美月。

「思い出した?」

 香織。

 泣きそうな顔。

「美月」

「なんで」

「私」

「あなたを」

 抱きしめる。

「忘れてたの」

 美月。

「お母さん」

 蓮。

「記憶が戻った」

 三上。

「傷が出た瞬間」

 栞。

「つまり傷は」

 一拍。

 「消される前の記憶につながってる?」

 ◇

 香織。

 美月を抱いたまま。

 震える。

「蓮」

「何」

「私」

「……」

「学校」

「行った」

 全員。

 静かになる。

「昨日?」

「うん」

「何時」

「分からない」

「誰に呼ばれた」

 香織。

 ゆっくり。

「あなたのお父さん」

「……」

「父さん?」

「でも」

「顔が」

「思い出せない」

「何て言われた」

「屋上に」

 香織。

「来てくれって」

「それで」

「行った」

 ◇

「屋上」

「誰がいた」

「蓮」

「何人」

 香織。

 顔を上げる。

「……三人」

 栞と同じ。

「それから」

「雨宮さん」

「俺」

 栞。

「覚えてる?」

「今」

「思い出した」

「高城君」

「二人」

 悠真。

「やっぱり」

「あと」

 香織。

 止まる。

「誰」

「あなたのお父さん」

 蓮。

「倒れてた人?」

 母。

「違う」

「じゃあ」

「立ってた」

「どこ」

「フェンスの前」

「倒れてた人は」

「……」

 香織。

 額を押さえる。

「分からない」

 ◇

「何が起きた」

 蓮。

 母。

「言い争ってた」

「誰が」

「あなたと」

「……」

「お父さん」

「何を」

「名前」

「また」

「うん」

 香織。

『蓮は俺の名前だ』

『違う』

『お前は高城悠真だ』

『それも違う』

 声。

 複数。

 そして。

「私」

 香織。

「何か」

「機械」

「持ってた」

「何」

「小さい」

「リモコンみたいな」

 三上。

「0組の操作端末?」

 香織。

「桐島さんに」

 蓮。

「知ってるじゃん!」

「今思い出したの!」

 ◇

「桐島に何を言われた」

「もし」

 香織。

 震える。

「蓮が」

「……」

「本当のことを思い出したら」

「……」

 一拍。

 『このボタンを押してください』

「って」

「押した?」

 母。

 泣く。

「……うん」

 ◇

 蓮は何も言えない。

「何が起きた」

「光」

「校内放送」

「それから」

 香織。

「みんな」

「……」

「何かを忘れた」

「俺も」

「たぶん」

「倒れてた人は」

「……」

「そのあと」

 一拍。

 「誰も見なくなった」

 ◇

 玄関。

 忘れられた男。

 小さく笑う。

『やっぱり』

 蓮。

「何」

『俺を消したの』

「母さん?」

『違う』

「じゃあ」

 男。

『桐島だ』

「でも母さんがボタン」

『ボタンは』

 一拍.

 『誰を忘れるか選ぶものじゃない』

「何」

『“犯人”を忘れるためのものだ』

 ◇

 全員。

 静かになる。

「じゃあ」

 三上。

「香織さんが押した瞬間」

『システムが』

「犯人を」

『選んだ』

「誰を」

 男。

『昨日は』

「……」

 『神谷蓮』

 蓮。

「俺?」

『三人とも』

「……」

『だから』

『どの神谷蓮が犯人だったか』

 一拍.

 『全員分からなくなった』

 ◇

「でも」

 蓮。

「俺が犯人とは限らない」

『そう』

「むしろ」

「犯人ってラベルを」

「俺たちに押しつけた」

『可能性が高い』

 栞。

「本当の犯人を」

「守るため」

『そう』

「誰を」

 男。

 玄関の外。

 道路。

 見る。

『この町で』

「……」

『一番』

 一拍.

 『忘れられない人間』

 ◇

「誰」

 男。

『桐島じゃない』

「じゃあ」

『神谷蓮でもない』

「誰」

 男。

 ゆっくり。

 香織を見る。

 でも。

 首を横に振る。

『彼女でもない』

「じゃあ誰なんだよ!」

 男。

『町そのものだ』

 ◇

「町?」

 悠真。

「意味分かんない」

『この町は』

『長い間』

『0組の記憶修正を受け続けた』

「……」

『何十年も』

『何百人も』

『少しずつ』

「……」

『同じ嘘を覚えた』

 三上。

「集団記憶」

『そう』

「町全体が」

「一つの人格みたいに?」

『近い』

 栞。

「じゃあ犯人は」

『個人じゃない』

「でも事件を起こすのは」

『人間』

「矛盾してる」

『だから』

 男。

 『町は毎回、“犯人役”を作る』

 ◇

「実際に何かした人と」

 蓮。

「犯人役は別?」

『そう』

「十七年前」

「あなたは」

『犯人役だった』

「本当は」

『分からない』

「昨日」

「俺たちは」

『犯人役』

「じゃあ」

 栞。

「本当に倒れてた人を」

「消した人」

『まだ』

「……」

 『誰にも忘れられていない』

 ◇

 蓮。

 息を呑む。

「忘れられてない?」

『犯人役は忘れられる』

『本当の犯人は』

「……」

『普通に暮らしてる』

 三上。

「誰か分かる?」

『一つだけ』

「何」

『昨日』

『屋上を出た人間』

「防犯カメラ」

『神谷蓮しか映ってない』

「じゃあ」

『カメラが』

 一拍.

 『その人を人間として認識してない』

 ◇

 栞。

「人間として?」

 男。

『0組のシステムに』

『登録されていない人間』

「未登録」

 三上。

「原型?」

『違う』

「誰」

 男。

『三十四人目』

 美月。

 顔が強張る。

「私?」

『今は』

「……」

 『君が候補だ』

「今は?」

『十七年前にも』

「雨宮栞」

『その前にもいた』

「誰」

 男。

『三十四人目は』

 一拍.

 『犯人を覚えておく人間だ』

 ◇

 蓮。

「待って」

「雨宮は」

「神谷蓮を覚える役じゃ」

『それも正しい』

「どういう」

『神谷蓮は』

『毎回犯人役にされる』

「……」

『だから』

『三十四人目だけは』

 一拍.

 『本当の犯人を覚えている必要がある』

 栞。

「十七年前の私は」

『知っていた』

「誰を」

 男。

『思い出せない』

「でも」

『写真』

「集合写真?」

『三十四人目が撮る』

 蓮。

「なぜ」

『犯人を』

 一拍.

 『写真の中へ残すためだ』

 ◇

 十七年前の集合写真。

 撮影者。

 雨宮栞。

 校舎。

 窓。

 二人の桐島。

 三人の神谷蓮。

 そして。

「背景」

 蓮。

「まだ誰かいる」

 栞。

「見落としてる?」

『そうだ』

「誰」

 男。

『写真を』

『上下逆さまに見ろ』

「……何?」

『十七年前』

『雨宮栞が』

『そう言ってた』

 ◇

 男。

 外。

 パトカー。

 近づく。

『もう行く』

 三上。

「待て!」

『俺を覚えるな』

「でも」

『次に会った時』

「……」

『俺を犯人だと思っても』

 一拍.

 『信じるな』

 男は夜へ走る。

 警察。

 近所の人々。

 追う。

 そして。

 角を曲がる。

 消えた。

 ◇

 午前四時四十分。

 リビング。

 十七年前の集合写真。

 スマートフォン。

 表示。

「上下逆」

 蓮。

 回転。

 180度。

「何が変わる」

 悠真。

 最初。

 何も。

 ただ。

 校舎が逆さま。

 人も逆さま。

 栞。

「待って」

「窓」

「何」

「反射」

 撮影者。

 ガラス。

 上下逆にすると。

 光の反射が、

 文字に見える。

「これ」

 三上。

「数字?」

 蓮。

 拡大。

 2-0-33-34

「何」

 悠真。

「二年0組」

「33」

「34」

 栞。

「出席番号?」

 次。

 別の反射。

 文字。

 犯人は列の中にいない

 全員。

 止まる。

「列の中にいない」

 蓮。

「じゃあ」

「背景」

 ◇

 逆さまの写真。

 校舎窓。

 撮影者。

 桐島。

 そして。

 地面。

 水たまり。

「水」

 栞。

「反射」

 写真の下。

 小さな水たまり。

 そこに。

 人物。

「誰か写ってる」

 三上。

 蓮。

 拡大。

 小さい。

 一人。

 撮影列の前。

 本来なら。

 カメラの近く。

「顔」

 悠真。

「見えない」

 でも。

 額。

 一本。

 傷。

 蓮。

 息を止める。

「……」

 美月。

「お母さん?」

 香織。

 自分の額へ触れる。

「私?」

 ◇

 十七年前。

 まだ高校生だったはずの香織。

 いや。

 年齢上。

 あり得る。

「母さん」

 蓮。

「この学校」

「通ってた?」

 香織。

 首を振ろうとする。

 でも。

 止まる。

「……」

「母さん?」

「分からない」

「卒業した学校」

「……」

「思い出せない」

 栞。

「制服」

 写真。

 水たまりの人物。

 制服。

 この学校。

 女子生徒。

 三上。

「十七年前」

「俺と同級生?」

 香織。

「……」

 頭を押さえる。

「三上」

 全員。

 止まる。

「母さん」

「今」

「先生の名前」

「知ってる?」

 香織。

 震える。

「三上君」

 三上。

 顔。

 真っ白。

「……香織?」

 ◇

 記憶。

 二人。

 同時に。

 三上。

「同じクラス」

 香織。

「二年三組」

「雨宮」

「いた」

 「神谷」

「いた」

 「0組」

 香織。

「……」

 顔を覆う。

「私」

「知ってる」

 蓮。

「何を」

 香織。

 ゆっくり。

 写真を見る。

「十七年前」

「雨宮栞が消えた日」

「……」

 一拍.

 「私も屋上にいた」

 ◇

 栞。

「何を見た」

 香織。

「雨宮さん」

「三上君」

「名前を忘れた男の子」

「神谷蓮」

「桐島」

「それから」

 声。

 震える。

「私」

 蓮。

「何が起きた」

「雨宮さんが」

「写真を撮った」

「うん」

「そのあと」

 香織。

 一拍.

 「誰かに突き飛ばされた」

 ※その行為自体は非グラフィックに、遠くから見た記憶として語られる。

「誰に」

 香織。

「見た」

「……」

「顔」

「覚えてる?」

「うん」

 全員。

 息を止める。

「誰」

 香織。

 口。

 開く。

 その瞬間。

 玄関。

 チャイム。

 ピンポーン。

 一回。

 二回。

 ◇

 誰も動かない。

 もう一度。

 ピンポーン。

 三上。

「誰だ」

 玄関モニター。

 映像。

 一人。

 男。

 スーツ。

 五十代。

 穏やかな顔。

 桐島校長。

 蓮。

「……」

 午前四時四十七分。

 校長が。

 蓮の家の前にいる。

 スピーカー。

『神谷君』

「何しに来た」

『香織さんに』

「……」

『思い出してはいけないことを』

 一拍.

 『思い出していただいたようなので』

 ◇

 蓮。

「母さんが」

「十七年前の犯人を知ってる」

 モニター。

 桐島。

 笑わない。

『そうでしょうね』

「誰」

『本人から聞けばいい』

「じゃあ入ってくるな」

『ですが』

「何」

『香織さんが思い出した人物は』

 桐島。

 少し。

 カメラへ近づく。

『十七年前に』

「……」

 一拍.

 『存在していません』

 ◇

「何?」

 香織。

「嘘」

 桐島。

『嘘ではありません』

「私は見た!」

『見せられたのです』

「誰に」

『0組に』

 蓮。

「また記憶を作った?」

『はい』

「じゃあ」

「母さんの記憶も偽物?」

『一部は』

「どこから」

『それを判別する方法は』

「……」

『一つしかありません』

「何」

 桐島。

 『犯行が起きる前の写真を見ることです』

 ◇

「集合写真」

『違います』

「じゃあ」

『雨宮栞が』

「……」

 『最後に撮った写真』

 栞。

「最後?」

『集合写真ではありません』

「どこにある」

『十七年前』

『彼女が消える直前』

「……」

『カメラを』

 一拍.

 『神谷香織さんへ渡しています』

 全員。

 母を見る。

「母さん」

 香織。

 震える。

「……カメラ」

「どこ」

「分からない」

「思い出して」

「家」

「この家?」

「違う」

「じゃあ」

 香織。

 目を見開く。

 「旧校舎」

 ◇

 三上。

「旧校舎は取り壊された」

 香織。

「違う」

「何が」

「地下」

「……」

「旧校舎」

 一拍.

 「地下に残ってる」

 蓮。

「B2?」

「もっと下」

 三上。

「B3?」

 香織。

「違う」

「名前」

「何」

 母。

 ゆっくり。

 「旧校舎0階」

 ◇

 桐島。

 モニター越し。

 初めて。

 表情が変わった。

『香織さん』

「思い出した」

『それ以上』

「雨宮さんが」

「カメラを」

「私に」

『やめなさい』

 香織。

「言った」

 蓮。

「何て」

 香織。

 涙。

 そして。

 十七年前の声を。

 そのまま読み上げるように。

 『もし私が消えたら、この町の誰も信じないで』

 栞。

 顔が青ざめる。

 香織。

 続ける。

 『犯人は、みんなが一番犯人じゃないと思ってる人だから』

 ◇

 蓮。

 桐島を見る。

「お前?」

 桐島。

『違います』

「じゃあ」

 香織。

 首を振る。

「違う」

「何が」

「雨宮さん」

「もう一つ」

「言った」

「何」

 香織。

 蓮を見る。

 その目には。

 恐怖。

 『神谷蓮だけは疑わないで』

 ◇

 蓮。

「俺じゃない」

「父さんでも」

「原型でも」

「神谷蓮は犯人じゃない」

 栞。

「じゃあ」

 三上。

「一番疑ってない人」

 悠真。

「誰」

 全員。

 沈黙。

 美月。

 小さな声。

「……先生」

 三上。

「俺?」

「違う」

「校長先生じゃなくて」

 美月。

 香織を見る。

「お母さんでもなくて」

 蓮。

「誰」

 美月。

 首を傾げる。

「私たち」

 一拍.

 「一回も、高城君を疑ってないよね」

 ◇

 全員。

 悠真を見る。

「……え」

 悠真。

 笑う。

「いや」

「待てよ」

 蓮。

 何も言えない。

 悠真。

 ずっと。

 隣にいた。

 一番最初から。

 写真を見た。

 メッセージ。

 彼の端末には残っていなかった。

 神谷蓮と。

 高城悠真。

 名前は何度も入れ替わっていた。

 昨日。

 高城悠真も、

 二人に分裂した。

 そして。

 幼稚園写真。

 本来。

 蓮の位置には。

 高城悠真

 と書かれていた。

「悠真」

 蓮。

「何」

「昨日」

「屋上に」

「いた?」

 悠真。

「……」

「二人のお前」

「どっちも」

「いた?」

 沈黙。

「悠真」

「俺」

 一拍.

 「分かんない」

 ◇

 その瞬間。

 悠真のスマートフォン。

 震える。

 画像。

 一枚。

 差出人不明。

 悠真。

 画面を見る。

「……」

「何」

 蓮。

「見せろ」

「蓮」

「何」

 悠真。

 顔。

 真っ白。

 画面。

 昨日の屋上。

 倒れていた、

 名前の消えた男。

 三人の神谷蓮。

 雨宮栞。

 香織。

 そして。

 写真中央。

 一人。

 高城悠真。

 その手には。

 B2・0の鍵。

 写真の裏。

 文字。

 『犯人を忘れましたか?』

 次。

 『それなら、もう一度思い出してください。』

 そして。

 最後。

 『昨日、最初に0組へ入ったのは高城悠真です。』

 ◇

 蓮は悠真を見る。

「……」

 悠真。

 何も言わない。

「違うよな」

「……」

「悠真」

「……」

「何か言えよ」

 悠真。

 ゆっくり。

 自分のポケットへ手を入れる。

「俺」

「何」

「これ」

「……」

「いつから持ってたんだろ」

 取り出す。

 古い鍵。

 金属タグ。

 そこには。

 B2・0

 蓮の呼吸が止まる。

 悠真自身も。

 鍵を見て。

 震えている。

「俺」

「知らない」

「……」

「本当に」

「覚えてない」

 そして。

 玄関モニター。

 桐島が言った。

『それが』

『この町の仕組みです』

 蓮が睨む。

『犯人だった者ほど』

 一拍.

 『自分が犯人だったことを、最初に忘れる』

 ◇

 悠真。

 鍵。

 握っている。

 でも。

 蓮は。

 すぐには疑えなかった。

 それこそが。

 怖かった。

 もし。

 「悠真が犯人だ」という記憶そのものが、

 0組によって作られたものなら。

 また。

 同じ間違いをする。

 十七年前と。

 同じように。

 蓮は鍵を見る。

 そして。

 ゆっくり言った。

「悠真」

「……」

「一緒に行こう」

「どこ」

「旧校舎0階」

「俺を」

「疑わないの?」

「疑う」

「……」

「でも」

 一拍.

 「疑ったまま、一緒に確かめる」

 ◇

 栞。

「それが一番いい」

 三上。

「犯人を決めるのは」

「証拠を見てからだ」

 美月。

「私も行く」

「ダメ」

 蓮。

「でも」

「今回は」

「美月が鍵かもしれない」

「だからこそ」

 蓮。

「危険」

 香織。

「私が残る」

「母さん」

「美月と」

「……」

「十七年前」

「逃げたから」

「今度は」

 一拍.

 「逃げない」

 ◇

 午前五時十二分。

 空。

 少しずつ明るくなる。

 蓮。

 栞。

 悠真。

 三上。

 もう一人の神谷蓮。

 五人。

 学校へ。

 旧体育館。

 B1。

 B2。

 0組。

 その先。

 白い部屋。

 SUBJECT 00。

 しかし。

 原型の少年。

 いない。

「どこ行った」

 三上。

 机。

 一枚の紙。

 旧校舎0階へ行きました。

 その下。

 犯人を見つけないでください。

 蓮。

「何」

 栞。

「続き」

 犯人が分かった瞬間、また誰かが消えます。

 悠真。

「じゃあ」

「どうすんだよ」

 最後。

 犯人ではなく、事件が起きなかった記憶を探してください。

 ◇

「事件が」

 蓮。

「起きなかった記憶?」

 三上。

「別の過去」

 栞。

「記憶が分裂してるなら」

「事件が起きた過去と」

「起きてない過去」

 悠真。

「両方ある?」

 蓮。

「それを」

「写真で確かめる」

 ◇

 白い部屋。

 奥。

 今まで壁だった場所。

 鍵穴。

 B2・0

 悠真。

 鍵を見る。

「俺が」

「開ける?」

 蓮。

「頼む」

「もし」

「何」

「俺が犯人だったら」

 蓮。

 少し黙る。

「その時は」

「……」

「ちゃんと聞く」

「何を」

「なんでやったか」

 悠真。

 笑う。

「殴らないの」

「それは」

 一拍.

 「話聞いてから考える」

 悠真。

「怖」

 少しだけ。

 二人。

 いつもの空気。

 戻る。

 ◇

 鍵。

 回る。

 ガチャ。

 扉。

 開く。

 下。

 階段。

 古い木。

 地下なのに。

 校舎の匂い。

 三上。

「これ」

「旧校舎」

 階段を降りる。

 壁。

 昔の掲示物。

 昭和。

 平成。

 時間が混ざる。

 そして。

 プレート。

 旧校舎0階

 ◇

 廊下。

 古い教室。

 誰もいない。

 中央。

 大きな展示ケース。

 その中。

 カメラ。

 十七年前。

 雨宮栞が。

 香織へ渡したもの。

「これ」

 三上。

「残ってた」

 ケース。

 鍵なし。

 蓮。

 開ける。

 古いデジタルカメラ。

 電源。

 入る。

「まだ動く」

 栞。

 画像。

 1。

 集合写真。

 2。

 屋上。

 3。

 0組。

 4。

 桐島。

 5。

 神谷蓮。

 そして。

 最後。

 6枚目。

「これ」

 ◇

 十七年前。

 屋上。

 雨宮栞が消える。

 数分前。

 写真。

 全員。

 写っている。

 三上。

 香織。

 雨宮栞。

 神谷蓮。

 桐島。

 名前の消えた男子。

 そして。

 もう一人。

 高城悠真に似た少年。

 蓮。

「……」

 悠真。

「俺?」

 でも。

 十七年前。

 存在するはずがない。

 写真。

 少年の胸。

 名札。

 拡大。

 文字。

 高城悠真

 ◇

 三上。

「十七年前にも」

「高城悠真」

 栞。

「神谷蓮だけじゃない」

「悠真の名前も」

「繰り返されてる」

 蓮。

 写真。

 さらに。

 少年の隣。

 一人の女子。

 額。

 傷。

 神谷香織。

「母さんも」

 蓮。

「名前が」

「繰り返されてる?」

 ◇

 つまり。

 神谷蓮。

 高城悠真。

 神谷香織。

 雨宮栞。

 そして。

 三上智也。

 名前。

 役割。

 十七年前と。

 現在。

「俺たち」

 栞。

「同じ事件を」

「違う人間で」

「繰り返してる?」

 三上。

「俺だけ」

「本当に十七年前からいる」

 蓮。

「だから先生だけ」

 一拍.

 「役じゃなくて、観測者?」

 ◇

 その瞬間。

 カメラ。

 最後の画像。

 自動で拡大。

 雨宮栞。

 十七年前。

 カメラへ向かって。

 何か。

 紙を持っている。

 文字。

 蓮。

 読む。

 『犯人は名前ではありません。』

 次。

 『役割です。』

 悠真。

「役割」

 三上。

「犯人役」

 次。

 『毎回、誰か一人が犯人にされます。』

 栞。

「やっぱり」

 次。

 『でも、本当に事件を起こしている人は毎回同じです。』

 全員。

 息を止める。

 蓮。

「同じ」

「誰」

 最後。

 紙。

 一番下。

 雨宮栞の文字。

 『その人は、写真を撮っています。』

 ◇

 誰も。

 動かない。

「写真を」

 悠真。

「撮ってる」

 蓮。

 机の中。

 最初の写真。

 屋上。

 自分。

 栞。

 知らない男。

 全部。

 誰かが撮った。

「差出人」

 栞。

「写真を送ってる人」

 三上。

「同じ人間?」

 蓮。

「なら」

 一拍.

 「犯人は最初から、俺たちの外にいる」

 ◇

 古いカメラ。

 突然。

 シャッター音。

 カシャ。

「今」

 栞。

「誰も触ってない」

 画面。

 新しい写真。

 7枚目。

 撮影時刻。

 現在。

 旧校舎0階。

 蓮。

 栞。

 悠真。

 三上。

 もう一人の蓮。

 五人。

 全員。

 写っている。

 つまり。

 撮影者は。

 五人の外。

 ◇

 写真。

 奥。

 教室の扉。

 一人。

 立っている。

「……」

 蓮。

 拡大。

 男子。

 制服。

 顔。

 見覚え。

「原型?」

 違う。

 もう少し年上。

 そして。

 胸。

 名札。

 神谷蓮

「また」

 もう一人。

 でも。

 その男子。

 手。

 カメラ。

 同じ型。

 こちらを撮っている。

 写真下。

 文字。

 『ようやく、ここまで来た。』

 次。

 『次は、僕の番だ。』

 最後。

 『神谷蓮を一人に戻す。』

 ◇

 廊下。

 足音。

 コツ。

 コツ。

 コツ。

 写真の中にいた少年が。

 本当に。

 廊下の奥から現れる。

 蓮。

「誰だ」

 少年。

 笑う。

「忘れた?」

「知らない」

「そっか」

 一歩。

「じゃあ」

 胸の名札。

 神谷蓮。

「今回も」

 一拍.

 「僕が犯人ってことにされるんだね」

 蓮は動けない。

「お前」

「何者」

 少年。

 笑みが消える。

「昨日」

「屋上で」

「君に」

 一拍.

 「殺された神谷蓮だよ」

 廊下。

 沈黙。

 そして。

 少年は続けた。

「正確には」

 「君たち全員に、忘れられた神谷蓮だ」

 蓮の手の中。

 最初の写真。

 裏。

 文字。

 勝手に増える。

 『犯人を忘れた町で、被害者だけが犯人を覚えている。』

 そして。

 最後の一行。

 『次は、誰を神谷蓮にしますか?』

――第七章「二人の神谷蓮」へ続く。
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