ベンチから始まる怪談譚

取材①

 翌日から、僕はWebで怪談話を検索しまくった。
 都市伝説や実体験の怪談、さらには日本昔話や妖怪の伝承まで、とにかく片っ端から読み漁る。

「ふぅ……。話はたくさんあるんだけど、結局どれも似たような話なんだよなぁ。ありきたりすぎて、これ以上怖い話なんて本当にあるのかな」

 あれから一週間ほど経っても、自分が「書きたい」と思える話には出会えていない。

 雫も隣からスマホの画面を覗き込みながら、
「なかなかピンとくるものがないね」
 なんて言っていた。

 やがて、雫はすくっと立ち上がる。

「よし。いろいろな人に話を聞いてくるよ。この小さな画面の中だけじゃ、探しきれない話もあるもんね」

 そう言うと、「思い立ったが吉日」と言わんばかりに、坂を下っていった。

「えっ、本当に?」

 思わず苦笑いがこぼれる。
 雫は思いつくと、いつもすぐに行動する。

 その日も、僕はベンチに残り、一人で画面とにらめっこを続けていた。

 特に収穫もないまま、また一日が過ぎた。
 雫の忠告通り、僕はベンチに来る時間を少し遅らせた。

(夕方なのに、全然暑い……)

 一応、開けた高台にある大きな木の下のベンチだから、木陰に入れば涼しい。

 まぁ、他の場所よりはマシという程度だけど。

「聞いてきたよー」

 雫が手を振りながら駆け寄ってくる。

(本当に人に聞いてきたのか……)

 雫のコミュニケーション能力と行動力には、いつも驚かされる。

「あのね、この坂を下った先にある欅通りを横断する踏切があるじゃない?」

 僕は雫の話す道順を頭の中で思い浮かべる。

「あー、あるね」

 主要道路である欅通りは片側一車線。
 その両脇には家や店が並んでいる。
 その途中にある、どこにでもありそうな普通の踏切だ。

「そこでね、声が聞こえたり、誰かに触られたりした人がいたんだって。」

「えっ、実際に体験した人の話?」

「そう」

 雫は頷いた。

「それで、その人は怖くなって、その道を通るのをやめたんだって」

「そうなんだ。じゃあ、それが何だったのかは分からないままってことか」

「そうみたい。でもね、その人がその場所で最後に聞いた言葉があるんだって」

「何?」

「『待ってたよ』って」

「……はっきり声が聞こえたの?」

「そうだって」

 ふーん……。

『待ってたよ』か。

 でも、その人は怖くなって、その踏切を通るのをやめたんだよな?

 それなのに、「待ってた」っていうのは少し変な話だ。

 まぁ、たまたま近くにいた誰かの声が聞こえただけかもしれないけど。

「それをベースに書いてみたら?」

 雫が言う。

「小説なんだから、真実を書かなくてもいいわけだし。なんか、この話からビビビって降りてこない?」

(うーん……)

「まぁ、考えてみるよ」

「よし! じゃあ、その方向で」

 雫は満足そうに頷いた。
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