マッチングした相手は片想いの社長でした
「社長、面会の方がいらしてます」

春樹さんが書類から顔を上げる。

「面会? 入ってたかな」

私は何も言えなかった。

香織さんが私の横を通り、春樹さんの前に立つ。

春樹さんの目が大きく見開かれた。

「……香織」

その声。聞いたことのない響きだった。

驚き。懐かしさ。

そして、ほんの少しだけ揺れたように見えた瞳。

香織さんが静かに微笑む。

「久しぶりね、春樹」

名前で呼び合う二人。

その光景を見た瞬間、胸の奥がずきんと痛んだ。

二人の間には、私の知らない時間がある。

私が入り込めない過去がある。

――婚約までした人。

その事実が、急に重く感じられた。

私はそっと視線を落とした。

さっきまで当たり前だったはずの春樹さんとの未来が、ほんの少しだけ遠く見えた。
< 201 / 295 >

この作品をシェア

pagetop