幼馴染からの溺愛が止まらない!
それから約二週間後。

いよいよ新学期の始業式の日がやってきた。

​結局、あの日の夕飯後も二人にしっかりと居座られ、彼氏との甘い余韻はすっかり双子の賑やかさにかき消されてしまった。

だけど、今日からは高校二年生!

心機一転、気持ちを切り替えて学校へ向かう。

​玄関を開けると、すっかり見慣れた二人の姿が門の前で待っていた。

うちの高校はスカートとズボン、リボンとネクタイ以外は指定していないから、制服の着方もバラバラだ。

悠くんはネクタイの結び目を少し緩めているけれど、ブレザーをしっかり着こなしていてどこか大人びて見える。

対する陽くんは、規定のシャツの上に少し大きめのダボッとしたパーカーを重ね着していて、相変わらずあざとい。

​「……何でいるの?」

​双子を回避するために、いつもより二十分も早く家を出たはずなのに!!

「新学期だから早く行きたくて!えへへ、同じタイミングなんて運命だね」

「よし、このバカ放っといて行こか」

「あ〜ん、悠陽にバカって言われた〜」

「よしよし」

​半ば呆れつつも、すかさず胸元に飛びついて抱きついてきた陽くんの頭をポンポンと撫でる。

ふわふわとした髪の毛の感触が手に伝わってきた。

「朝から甘やかすなや」

​横から悠くんが不機嫌そうに割り込んでくると、陽くんの首後ろをひょいと猫のように掴んで私から引き剥がした。

​「悠くんが朝から意地悪言うからやん。ほら、遅刻する前に早く行くよー!」

​溜め息をつきながら歩き出す私の両隣を、当然のような顔をした二人が挟み込んでくる。

学校までの道のり、満開の桜が舞い散る歩道を三人で並んで歩く。

​「ねぇ雪ちゃん、クラス発表ドキドキするね。僕、雪ちゃんと絶対同じクラスが良い!」

「俺はどっちでもええけど。どうせ雪は分かりやすいから、どこのクラスになってもすぐ見つけられるやろ」

「それどういう意味……?」

​そんな会話を交わしながら校門をくぐると、下駄箱の前には新しいクラス替えの貼り紙を囲む生徒達の人だかりができていた。

​「わ、すごい人」

「雪ちゃん押し潰されちゃうから、後ろにいて!僕が見てきてあげる!」

「いや、俺が行く。陽翔が見に行ってもどうせ見間違えるわ」

「間違えないよ!」

​押し問答を始める二人を余所に、私はそっと張り出された名簿を見上げ、まずは自分の名前を探す。

​(あ、あった!二年A組……!)

​そしてそのすぐ近く、同じA組の名簿の中に並ぶ文字が見えた。

​『小野雪』

『神崎陽翔』

『神崎悠翔』

​……嘘でしょ?泣いて良い?泣いて良いよね、これ。

​「雪ちゃん!僕達三人ともA組だよ!」

「……奇跡って起きるもんやな」

​背後から二人の喜ぶ声と、呆れるような声が同時に聞こえてくる。

全二クラスとはいえ、まさか三人揃って同じクラスになるなんて。

絶望に打ちひしがれる私を他所に、陽くんは「やったー!」と大はしゃぎで私に抱きついてくる。

ちなみに彼氏である浜田くんは別のクラスだった。

​……何で!?

思わず心の中で叫んだ。

いや、待って。

落ち着こう、私。

確率の問題だ。うちの高校は一学年二クラスしかない。

だから、私と双子が三人とも同じクラスになる確率は、そこまで低くない。

うん。

そう考えれば、まだ納得できる。

でも、でもだよ?

どうしてよりによって――。

「雪ちゃん!同じクラスだよ!」

「……うん」

「一年間ずっと一緒だね!」

「……うん」

「毎日一緒に学校来られるね!」

「……いつもと同じやん」

​無邪気に嬉しそうに笑う陽くん。

その隣では、悠くんも満足そうにドヤ顔でガッツポーズしている。

「奇跡って重なると、もはや怪奇現象やな」

悠くんが、ボソッと失礼なことを呟いた。

​「怪奇現象って失礼すぎでしょ!」

​私が頭を抱えて頭上を仰ぐと、陽くんは「えー?」と小悪魔的な笑みを浮かべ、すかさず私の顔を両手で挟み込んできた。

​「それって、神様が『雪ちゃんは僕達と一緒にいなさい』って言ってるんじゃない?」

「言ってるわけないでしょ!」

「まぁ、諦めろ。その彼氏が隣のクラスなら休み時間に行けばええ話やろ」

​悠くんが私のカバンをひょいと持ち上げ、そのまま歩き出した。

「そうなんだけど……って、私のカバン!」

急いで悠くんの後ろを追いかけ、引き留めようと手を伸ばす。

けれど、彼はひょいっとカバンを高く掲げて私から遠ざけた。

​「返してほしかったら、さっさと教室行くぞ。ほら、置いてくで」

「あ、ずるい!僕も雪ちゃんの荷物持ちたいのに!」

​陽くんが悔しそうに悠くんの隣に並び、なんだかんだで三人で教室内へと足を踏み入れることになった。

​新しく過ごす二年A組の教室。

黒板に貼られた座席表の紙の前には、すでに人集りができている。

​(頼むから、座席くらいは離れて……!)

​藁にもすがる思いで人混みの隙間から自分の名前を探す。……そして、絶望した。

廊下側の後ろから三番目が私、その直後が陽くん、一番後ろの席が悠くん。

五十音順って残酷な運命だよね〜……!!

​諦めて自分の席に着くと、ふと廊下側の窓から隣のB組の様子が見えた。

​人混みの隙間に、彼氏の浜田くんの姿が見える。

目が合うと、彼は少し不安そうに、でも優しく手を振ってくれた。

(あ、浜田くん……!)

​照れくささに胸がキュッとして、私も振り返そうと小さく手を挙げかけた、その瞬間。

髪の毛に違和感。

クマのポシェットから手鏡を取り出して見てみると、私の髪を悠くんが一生懸命編んでいた。

……もしかして、『彼氏の前くらいは可愛くしないとあかんで』ってことなのかな?

「悠くん、ありがとうね」

感謝の言葉を口にし、B組の教室へと視線を戻すと、手を振っていた浜田くんは完全に動きを止め、窓越しにこちらの様子を固まった表情で見つめていた。

その顔にはあからさまな困惑と、ほんの少しの焦燥感が浮かんでいる。

「……?」

首をかしげる私を他所に、悠くんは編み終えた髪の先をぽんと指で叩き、そのまま何事もなかったかのように窓の外へ視線を向けた。

手鏡に映る私は、ハーフアップの編み込みでいつもより少しだけ大人っぽく整えられていた。

「ありがとう」

「どーいたしまして」

悠くん、手先が器用すぎる……!

「可愛いねぇ〜、雪ちゃん」

じっと私を見ていた陽くんは、手に持っていたリボンをひらひらと振りながら近づいてくる。

「これも付けていい?」

「え、まだやるの?」

「だって、せっかく悠翔が髪を編んでくれたんだもん。

もっと可愛くしようよ!」

「いや、もう十分だよ」

「えー、絶対もっと可愛くなるのに」

それを聞いて少し考える。

「じゃあ、陽くんもお願い」

「任せて!」

陽くんは嬉しそうに笑うと、私の後ろへ回り込んだ。

さっきまでの勢いはどこへやら。陽くんは妙に真剣な顔になって、私の髪を丁寧に整えていく。

「……できた!雪ちゃん、見てみて!」

​陽くんが満足げに私の肩をポンポンと叩く。

手鏡を覗き込むと、悠くんの作ってくれたハーフアップの結び目に、淡いピンクのリボンが綺麗に結ばれていた。

「似合うやん、さすがやな陽翔」

「でしょ〜!」

​二人のいつも通りのやり取りに、少しだけ緊張が解けてふっと息を吐く。

​ふと気になって、もう一度廊下側の窓からB組の教室へと視線を投げる。

そこには、まだ固まったままこちらを見つめている浜田くんの姿があった。

​さっきよりも少しだけ眉をひそめていて、その視線は私の後ろに立つ双子――特に、涼しい顔で私の机の端に肘をついている悠くんと、無邪気に私の肩に手を置いている陽くんに注がれている。

​(……あ、もしかして誤解されてる……?)

​同じクラスになれなかっただけでもショックだったのに、朝早々から双子に挟まれて髪をいじられているところを見られたのだ。

彼氏として、複雑な気持ちになるのも無理はない。

「雪、そんな窓ばっか見てたら首痛めるで」

​悠くんがひょいっと私の顔の前にノートを差し出して、浜田くんとの視線を遮った。

​「あ、いや別に浜田くんに挨拶しようと思って……」

「……ふーん」

悠くんはそれだけ言うと、ノートを下ろした。

けれど、浜田くんの姿はもう見えない。どうやら向こうも教室の中へ戻ってしまったらしい。

「あ……行っちゃった」

「首痛めても知らんで」

​悠くんはそっけなく呟くと、自分の机にドサッとカバンを置いた。

​「もう、悠翔が邪魔するからじゃん!雪ちゃん、悲しそうな顔してるでしょ」

陽くんがぷくっと頬を膨らませて悠くんを責めるけれど、悠くんは涼しい顔で肩をすくめた。

​「俺のせいちゃうわ。タイミングが悪かっただけやろ」
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