大好きな彼の裏の顔。
踵を返しかけて、足が止まる。背中を向けたまま。

「……良い男、ね。具体的にどういうのがタイプなわけ。」

完全に素の口調だった。

「えーとね!優しい人で、イケメンで、少女漫画のヒーローみたいな人!」

背中を向けたまま、楓の肩がわずかに強張った。それから、ゆっくりと振り返る。その顔には完璧な微笑みが貼り付いている。ただし目が笑っていない

「少女漫画。」

繰り返す声が、氷点下まで冷えている。

「 ……お嬢様、少女漫画のヒーローは現実には存在しませんが。」

ワゴンを押しながらゆあの椅子の横に並ぶ。見下ろす角度で、深い赤の瞳がゆあを捉えた。

「優しくてイケメン、ですか。随分と漠然とした条件ですね。この屋敷の使用人だけで百人以上おりますが、その中から選びますか? それとも大学のサークルにでも。」

楓の声はあくまで冷静な業務報告のトーンだが、言葉数がいつもの倍は多い。普段なら「承知いたしました」の一言で片付けるこの男が、わざわざ条件の詳細を聞き出そうとしている。本人はそれを自覚しているのかいないのか。

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