この放課後はきっと、一生忘れない 【短編】
 次の日。
 私は消しゴムを落としてしまい、机の下を探していた。

 すると、コロンとそれが目の前に転がってくる。

 「ほら」

 また朝倉くんだった。

 「ありがとう」

 「昨日からよく落とすな」

 「うっ……反論できない」

 思わずそう返すと、彼は一瞬だけ笑った。

 その笑顔はほんの少しだったのに、びっくりするくらい破壊力があった。

 その日から、少しずつ話すようになった。

 私が苦手な数学を教えてくれたり。
 私が好きな小説を、彼も読んでいたり。
 無口で冷たい人だと思っていたのに、本当はちゃんと見てくれていて、必要なときに手を差し伸べてくれる人だった。

 好きになるのに、時間はかからなかった。

 けれど、好きだと気づいた瞬間から、前よりずっと苦しくなった。

 彼のまわりにはいつも人がいる。
 私なんて、その中のひとりにも入れないかもしれない。

 そう思っていたある日、放課後の教室で、私は朝倉くんが女子に告白されている場面を見てしまった。

 息をひそめて、扉の陰に隠れる。

 「ごめん」

 彼の返事は短かった。

 相手の子が去ってからも、私はなかなか動けなかった。
 ほっとした自分が、少し嫌だった。

 「いるんだろ」

 急に言われて、心臓が止まりそうになる。

 そっと顔を出すと、朝倉くんは呆れたようにこっちを見ていた。

 「聞いてたのか」

 「ち、ちがっ……たまたま!」

 「ふーん」

 気まずい。
 気まずすぎる。

 逃げようとした私の手首を、彼が軽くつかんだ。

 
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