薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
「ただね」

茂樹先生が、ふっと息を吐いた。

「玲奈さんが調べながら、ものすごく怒っててね」

私は玲奈さんを見る。

本人が露骨に顔を逸らした。

「……何て?」

「『杜撰!』って」

耀さんが吹き出した。

「それだけ?」

「最初はね」

茂樹先生が楽しそうに続ける。

「そのうち、『これだけ何重にも動かしておいて、何で最後に自分のところへ集めるんだ!』って」

玲奈さんが額を押さえる。

「だって、本当にそうなのよ」

「さらに?」

「『記録まで残して何がしたいんだ!』」

大雅さんが苦笑した。

「相当腹立ってるな」

「最後は?」

耀さんが聞く。

茂樹先生が一拍置いた。

「『アイツらはアホのアホだ!』」

「…………」

一瞬。

誰も言葉が出なかった。

そして、耀さんが最初に吹き出した。

「アホのアホって何」

「だって!」

玲奈さんがとうとう声を上げた。

「やってること自体は複雑なの! 会社いくつも挟んで、名義変えて、取引先も分けて、資金も回して! そこまでやったのに!」

スクリーンを指差す。

「最後、未來の会社に集めてるのよ!?」

「まあ……」

「しかも必要以上に記録残してるし、未來はSNSで坂上との接点残しまくるし、鑑定記録まで保管してるし!」

「落ち着いて、玲奈」

耀さんが笑いながら言う。

「これが落ち着いてられる!?」

「陸斗より怒ってるじゃん」

「私は企業法務やってんの! こういう中途半端な隠し方が一番腹立つの!」

何となく。

玲奈さんが怒っている理由が少し違う気がする。

でも。

分かる。

言いたいことは、ものすごく分かる。

やっていることは大掛かり。

人を騙し。

会社を動かし。

資金まで複雑に流した。

なのに。

SNSには痕跡を残し。

重要な記録まで保存し。

会社の移行先を何重にも分けた挙げ句、最後は未來の会社へ集約。

企業法務に強い玲奈さんが、全部追った末に辿り着いた評価が。

――アホのアホ。

「玲奈さん……相当腹立ったんですね」

「腹立つわよ!」

即答だった。

「アーク・プレデターだか何だか知らないけど、自分で食い散らかした跡を全部残してどうするのよ!」

「まだ怒ってる……」

私が呟くと、部屋に少しだけ笑いが戻った。

でも。

茂樹先生はすぐに表情を改めた。

「その杜撰さに助けられたのも事実だよ」

画面には。

坂上幹司。

坂梨未來。

アークグローバルソリューション。

私の両親の会社。

そこから伸びた複数の線が、最後にはっきりと一つへ集まっていた。

事故。

会社。

財産。

馬淵信治郎。

耕史。

五歳の子ども。

未來。

坂上先生。

今まで別々に見えていたものが、ようやく一本に繋がり始めた。

確信が、一つずつ核心へ変わっていく。

そして、完全ではなくても、もう逃げ道を塞ぐために動き出せるだけの材料は揃いつつあった。

私は大型スクリーンを見つめたまま、小さく息を吐いた。

この一日で、いくつ真実を知ったんだろう。

それなのに、まだ終わった気がしない。

むしろ、ここまで来てようやく分かった。

――結論は意外だった。

核心を握って現れると思っていた耕史は、何も知らなかった。

でも、何も知らなかったからこそ、彼が無防備に落としていった言葉が、最後に残っていた幾つもの線を繋いだ。

そして今。

それらの線の先にいる人物は、もうはっきり見えていた。
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