薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
「玲奈さんのところでも追加で企業関係を洗ってもらった」

茂樹先生が鞄から分厚い資料を取り出した。

玲奈さんも横から補足する。

「アークグローバルソリューション。表向きは企業の危機管理や海外進出、M&Aなどを扱うコンサルティング会社」

それだけなら、優秀な企業コンサル会社にしか聞こえない。

でも。

玲奈さんの表情を見る限り、もちろんそれだけではなかった。

「問題は、その裏」

茂樹先生が続ける。

「ターゲットにした企業へ入り込み、内部情報や経営陣の弱みを握り、それを利用して経営へ影響を与える。問題を処理する代わりに利益を吸い上げたり、危機に付け込んで資本や事業を取り込んだりしていた形跡がある」

暢さんが眉を寄せる。

「企業を助けるコンサルじゃなく、食い物にするコンサルですか」

「かなり近い」

玲奈さんが一枚の資料を開いた。

「全部が違法と確定してるわけじゃない。でも、複数の会社で似た動きが出てる。偶然で片づけるには多過ぎる」

企業内部へ入る。

弱みを掴む。

経営が揺れたところへ入り込む。

危機を救ったように見せながら、最後には自分たちの利益になる形へ持っていく。

「一部では、アーク・プレデターなんて呼ばれてるらしい」

茂樹先生が言った。

「……物騒ですね」

「やってることも十分物騒だよ」

そして、一枚の資料がテーブルへ置かれた。

「奏さんのご両親の会社も、同じような流れで狙われていた可能性が極めて高い」

胸の奥が冷たくなる。

「玲奈さんには、会社の移行、資本関係、代表者の変更、事業譲渡、その辺りを全部追ってもらった」

「全部?」

「全部」

玲奈さんが即答した。

「途中で腹立ってきたけどね」

「何でですか?」

「あとで分かる」

……嫌な予感。

大型スクリーンへ企業の関係図が表示された。

一つの会社から一部事業が切り離され。

別法人へ移り。

さらに別の会社を挟み。

一度離れた線が、また交差する。

見ているだけで頭が痛くなる。

「……何ですか、これ」

「分かりにくくしてるのよ」

玲奈さんが答える。

「何重にも移して、別々の会社を経由させてる。でも、全部辿った」

画面の線が、最後に一つへ集まっていく。

その先。

表示された会社。

そして代表者。

――坂梨未來。

「……未來?」

「そう」

玲奈さんの声が低くなる。

「最終的には、坂梨未來が代表を務める会社へ主要なものが集約されてる」

私は画面から目を離せなかった。

会社を移し。

名前を変え。

複数の法人を挟み。

分からなくしたつもりで。

最後は、未來のところへ。

「それだけじゃない」

茂樹先生が次の資料を出した。

「奏さんのご両親の財産についても追った」

胸がざわつく。

「……財産?」

「当時は、会社の負債処理に充てられたと説明されていたね」

「はい」

そう聞かされていた。

会社が大変だった。

負債が残った。

だから、両親の財産もほとんどそこへ消えた。

ずっと、そういうものなんだと思っていた。

でも。

茂樹先生は首を振った。

「処理記録と実際の資金移動が一致しない」

「……え?」

「負債として処理したように見える部分がある。でも、帳簿と金の流れを照らすと合わない」

暢さんが尋ねる。

「金は?」

「何段階か経由してる」

玲奈さんが画面へ次の線を出した。

「でも最終的には、さっきの会社移行と同じところへ合流する」

陸斗さんが低く言う。

「つまり、会社も資産も、最終的に同じ側へ流れている」

「そういうこと」

両親が亡くなり。

会社を失い。

財産も負債に消えた。

全部、事故のあとに起きた不幸だと思っていた。

でも。

違った。

「坂上幹司と坂梨未來」

茂樹先生の声から、いつもの柔らかさが消えた。

「二人が中心になって動いていたとみていいだけの材料が、かなり揃ってきた」

会社へ近づく。

投資話を持ち込む。

事故前から関係を作る。

事故のあと。

会社を何重にも動かし。

資産も別の経路へ流す。

そして最後は、自分たちのところへ。

「会社の移行記録、資金の流れ、内部資料。それぞれ単独では別の説明も出来る。でも、全部を重ねると偶然では通しにくい」

茂樹先生が資料の束へ手を置いた。

「もう、“何となく怪しい”という段階ではないよ」

誰も笑わなかった。

事故だけじゃない。

会社だけでも。

財産だけでもない。

今まで別々に見えていたものが、同じ仕組みの中で繋がり始めている。

< 167 / 290 >

この作品をシェア

pagetop