薔薇色って何色?――ロト7で人生をやり直すはずが、敏腕弁護士の執着愛に捕まりました――
控えめなベルの音が鳴った。
中へ入って、少し驚く。
思っていたよりも、ずっと明るい室内だった。
受付らしいカウンターの奥には棚があり、法律関係の分厚い本がずらりと並んでいる。けれどその一方で、窓際には観葉植物が置かれ、壁には小さな風景画まで飾られていた。
いかにも法律事務所、という冷たい雰囲気ではない。
もっと堅苦しい場所を想像していた私は、少し拍子抜けした。
「こんにちは」
声を掛けられて、はっとする。
受付にいた女性が、こちらを見て微笑んでいた。五十代後半くらいだろうか。柔らかな表情の人だった。
「あ……こんにちは」
入ったはいい。
それで?
私は何をしに来たんだろう。
今になって、急に困った。
女性はそんな私を急かすこともなく、少しだけ首を傾げる。
「何かありましたか?」
その聞き方が、意外だった。
――予約はありますか?
――ご相談内容は?
普通なら、そう聞かれるものだと思っていた。
「……予約、してないんですけど」
「ええ、大丈夫ですよ」
「でも……」
言葉が続かない。
だって、本当に何も決めていない。
すると女性は、ごく自然に奥のソファを示した。
「とりあえず、お掛けになります?」
「え?」
「立ったままじゃ話しづらいでしょう?」
「あ……はい」
断る理由を探している間に、なぜか案内されていた。
小さな応接スペースに腰を下ろす。
……座ってしまった。
ますます帰りづらい。
そんなことを考えていると、目の前に湯呑みが置かれ、ほのかにお茶の香りが立った。
「どうぞ」
「あの……」
「はい?」
「私、お金……」
そこまで言って、自分で止まった。
――いや、ある。
今日からは。
とんでもないくらいに。
昨日までなら、法律事務所でお茶を出されただけでも、このあといくら請求されるんだろうと本気で心配したと思う。
どうやら、その癖がまだ身体に染みついているらしい。
女性は一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。
「お茶代は取りませんよ」
「……そういう意味では」
「分かってます」
くすくす笑いながら、向かい側へ腰を下ろす。
「友田聖子です。ここの事務をしています」
「神宮寺……奏です」
「奏さんね」
さらりと名前を呼ばれた。
初対面なのに、それが妙に自然だった。