十年前なら、あなたを好きになれたのに。―10歳下の後輩に本気で恋をしました―
第35話 昨日のことは
第35話 昨日のこと
洗面所から。
戻る。
「一ノ瀬くん」
「はい」
「できたよ」
テーブルを見る。
二人分。
パン。
卵。
サラダ。
スープ。
「……」
本当に。
俺の分もある。
「座って」
「はい」
向かいに。
座る。
「いただきます」
「どうぞ」
パンを。
一口。
「……」
普通に。
うまい。
「おいしいです」
「ほんと?」
「はい」
「よかった」
主任が。
少し笑う。
「……」
まずい。
何がまずいって。
この状況。
休日の朝。
主任の家。
二人きり。
向かい合って。
主任が作った朝飯を。
食べてる。
「……」
昨日まで。
こんなの。
想像したこともなかった。
いや。
想像したら。
ダメなやつだろ。
「一ノ瀬くん」
「はい?」
「……」
主任の手が。
止まっている。
「どうしました?」
「聞いていい?」
「何をです?」
「……昨日」
「……」
来た。
「私」
「はい」
「どこから覚えてないと思う?」
「俺に聞くんですか?」
「……三次会の途中くらいから」
「結構前ですね」
「やっぱり?」
「やっぱりって」
「たぶん。その辺から記憶ない」
「……」
でしょうね。
あの状態で。
全部覚えてたら。
逆にすごい。
「どうやって帰ったかも?」
「覚えてない」
「マンション着いたのも?」
「覚えてない」
「俺と腕組んで歩いたのも?」
「……」
主任が。
止まる。
「腕?」
「あ」
「……組んだの?」
「いや」
「今言ったよね?」
「言いましたね」
「私から?」
「……」
「一ノ瀬くん」
「はい」
「私から?」
「そうですね」
「…………」
主任が。
ゆっくり。
顔を伏せる。
「……ごめん」
「大丈夫ですよ」
「重かった?」
「……」
「何その間」
「体重の話なら大丈夫です」
「体重の話なら?」
「何でもないです」
「……?」
危ない。
言えるわけない。
歩くたび。
胸が。
腕に。
「……」
やめろ。
思い出すな。
「一ノ瀬くん?」
「はい」
「顔赤くない?」
「朝なんで」
「何それ」
「分かんないです」
スープを。
飲む。
誤魔化す。
「それで?」
「はい?」
「マンション着いてから」
「ああ」
「私、ちゃんと帰れた?」
「帰れましたよ」
「よかった……」
「一回目は」
「……一回目?」
主任が。
顔を上げる。
「何?」
「部屋まで送って」
「うん」
「主任が中に入ったんで」
「うん」
「俺、帰ったんですよ」
「……」
「扉閉めて」
「うん」
「何歩か歩いたら」
「……」
「ガタンって」
「…………」
主任の顔が。
固まる。
「戻ったら」
「……」
「玄関で転んでました」
「…………」
「片方だけ靴履いたまま」
「……待って」
「完全に靴に負けてました」
「やめて」
「転んだっていうか」
「詳しく言わなくていい!」
「面白かったんで」
「最悪……」
主任が。
両手で。
顔を覆う。
「それで」
「まだあるの?」
「むしろここからです」
「聞きたくない」
「じゃあやめます?」
「……」
「……」
「聞く」
「どっちですか」
「怖いけど聞く」
「じゃあ」
パンを。
一口食べる。
「玄関に置いて帰るわけにもいかないんで」
「……うん」
「ソファまで連れていきました」
「それで一ノ瀬くんが家にいたんだ」
「そうです」
「……ごめん」
「いいですよ」
「水とか」
「飲ませました」
「……」
「めちゃくちゃ嫌がってましたけど」
「ごめんなさい」
「あと一口って言ったら飲みました」
「子どもじゃん……」
「俺もそう思いました」
「言わなくていい」
主任が。
恥ずかしそうに。
スープを飲む。
「……」
しばらく。
静かになる。
「一ノ瀬くん」
「はい」
「……私」
「はい」
「他に」
「……」
「変なことしてない?」
「……」
俺の手が。
止まる。
主任が。
不安そうに。
こっちを見ている。
「その間」
「いや」
「何?」
「……してますね」
「え」
主任の顔が。
一瞬で変わる。
「何した?」
「聞きたいです?」
「その聞き方やめて」
「じゃあ」
「言って」
「……」
思い出す。
帰ろうと。
立ち上がった俺の手を。
主任が。
握った。
そして。
小さな声で。
『……いかないで』
「……」
いや。
無理。
そのままは。
言えない。
「俺が帰ろうとしたら」
「うん」
「腕掴まれました」
「……私に?」
「他に誰がいるんですか」
「……」
「で」
「……うん」
「『行くな』って」
「…………」
止まった。
主任が。
完全に。
止まった。
「…………私が?」
「主任が」
「……嘘」
「ほんとです」
「私、そんなこと言った?」
「言いました」
「行くな?」
「はい」
「……命令形?」
「結構な圧でした」
「…………」
「怖かったですよ」
「絶対嘘」
「ほんとですって」
「私そんな言い方しない」
「酔ってましたからね」
「……」
「帰ろうとしたら、ぎゅって」
「……」
「全然離してくれなくて」
「やめて」
「俺、帰りますって言っても」
「もういい」
「『行くな』って」
「言わないで!」
主任が。
顔を赤くする。
「最悪……」
「俺が?」
「私が!」
「びっくりした」
「……忘れて」
「無理です」
「忘れて」
「面白かったんで無理です」
「一ノ瀬くん」
「はい」
「嫌い」
「朝飯食べてから言ってください」
「もう食べてる」
「じゃあ食べ終わってから」
「……ほんと嫌」
主任が。
顔を赤くしたまま。
パンを食べる。
「……」
笑いそうになる。
もちろん。
本当は。
『行くな』
じゃない。
もっと。
小さな声で。
もっと。
弱く。
『……いかないで』
そう。
言われた。
あの声は。
今でも。
ちゃんと。
覚えてる。
たぶん。
しばらく。
忘れない。
でも。
それを。
本人に。
そのまま伝えるのは。
なんとなく。
できなかった。
「……それで?」
主任が。
まだ。
顔を赤くしたまま。
聞く。
「何です?」
「腕掴んで」
「はい」
「……そのあと」
「ああ」
「何で一ノ瀬くん、床で寝てたの?」
「主任が離してくれないからです」
「……」
「仕方なくソファの横に座って」
「うん」
「寝たら帰ろうと思ってました」
「……」
「俺も寝ました」
「…………」
「以上です」
「ほんと?」
「ほんとです」
「……」
主任が。
少しだけ。
迷う。
「何です?」
「……何も」
「何も?」
「……」
たぶん。
聞きたいことは。
分かった。
「何もしてないですよ」
先に。
答える。
「……」
主任が。
俺を見る。
「ほんとに?」
「ほんとです」
「……そっか」
明らかに。
安心した顔。
「というか」
「何?」
「何もしてないことに感謝してください」
「……は?」
「酔っ払った主任を部屋まで送って」
「うん」
「玄関で転んだ主任を助けて」
「……うん」
「水飲ませて」
「うん……」
「帰ろうとしたら『行くな』って捕まえられて」
「それはもう言わないで」
「挙げ句、俺は床で朝までです」
「……」
「これ、結構感謝されてもいいと思うんですけど」
「介抱してくれたことには感謝してる」
「そこだけ?」
「そこだけって」
「何もしてないことは?」
「それは当たり前でしょ」
「……まあ」
「それに」
主任が。
パンを。
一口食べる。
「私、三十四だよ?」
「……はい」
「一ノ瀬くんからしたら十個も上だし」
「……」
「そんな気にもならないでしょ」
「…………」
危な。
今。
普通に。
むせそうになった。
「一ノ瀬くん?」
「……何ですか?」
「何その顔」
「いや」
「変なこと言った?」
「……別に」
そんな気にも。
ならない。
「……」
昨日。
腕を組まれて。
歩くたび。
柔らかい感触がして。
どこを見ればいいのか。
分からなくなって。
シャツの。
開いた胸元を。
見ないようにして。
『いかないで』
なんて言われて。
手まで。
離してもらえなくて。
「……」
そんな気にも。
ならない。
どころか。
「一ノ瀬くん?」
「はい」
「またぼーっとしてる」
「主任」
「何?」
「男にそういうこと言わない方がいいですよ」
「……え?」
「いや。何でもないです」
「何それ」
「とにかく」
スープを。
一口飲む。
「何もしてないです」
「……うん」
「安心してください」
「してるよ」
「ならいいです」
主任は。
たぶん。
分かってない。
三十四とか。
十歳上とか。
そんなの。
俺にとっては。
今さら。
何の関係もない。
というか。
昨日の俺が。
どれだけ大変だったか。
主任は。
一生。
知らなくていい。
「……」
主任が。
少しだけ。
視線を落とす。
「でも」
「はい?」
「ありがとう」
「……」
さっきまでとは。
違う。
少し。
真面目な声。
「昨日」
「はい」
「送ってくれて」
「いいですよ」
「家の中まで」
「玄関で転んだのは主任なんで」
「それは忘れて」
「無理です」
「……」
「あと『行くな』も」
「一ノ瀬くん」
「はい」
「朝ごはん片付けるよ」
「すみません」
主任が。
笑う。
俺も。
笑う。
「ほんとにありがとう」
「……はい」
それだけ。
なのに。
妙に。
嬉しかった。
昨日。
腕を組んで歩いたこと。
手を握られたこと。
『いかないで』
と言われたこと。
そして。
今。
主任が作った。
朝飯を。
二人で食べていること。
全部。
主任にとっては。
酔った次の日の。
ちょっと恥ずかしい出来事。
なのかもしれない。
でも。
俺にとっては。
たぶん。
違う。
「……」
また。
一つ。
好きになった。
そんな気がした。
洗面所から。
戻る。
「一ノ瀬くん」
「はい」
「できたよ」
テーブルを見る。
二人分。
パン。
卵。
サラダ。
スープ。
「……」
本当に。
俺の分もある。
「座って」
「はい」
向かいに。
座る。
「いただきます」
「どうぞ」
パンを。
一口。
「……」
普通に。
うまい。
「おいしいです」
「ほんと?」
「はい」
「よかった」
主任が。
少し笑う。
「……」
まずい。
何がまずいって。
この状況。
休日の朝。
主任の家。
二人きり。
向かい合って。
主任が作った朝飯を。
食べてる。
「……」
昨日まで。
こんなの。
想像したこともなかった。
いや。
想像したら。
ダメなやつだろ。
「一ノ瀬くん」
「はい?」
「……」
主任の手が。
止まっている。
「どうしました?」
「聞いていい?」
「何をです?」
「……昨日」
「……」
来た。
「私」
「はい」
「どこから覚えてないと思う?」
「俺に聞くんですか?」
「……三次会の途中くらいから」
「結構前ですね」
「やっぱり?」
「やっぱりって」
「たぶん。その辺から記憶ない」
「……」
でしょうね。
あの状態で。
全部覚えてたら。
逆にすごい。
「どうやって帰ったかも?」
「覚えてない」
「マンション着いたのも?」
「覚えてない」
「俺と腕組んで歩いたのも?」
「……」
主任が。
止まる。
「腕?」
「あ」
「……組んだの?」
「いや」
「今言ったよね?」
「言いましたね」
「私から?」
「……」
「一ノ瀬くん」
「はい」
「私から?」
「そうですね」
「…………」
主任が。
ゆっくり。
顔を伏せる。
「……ごめん」
「大丈夫ですよ」
「重かった?」
「……」
「何その間」
「体重の話なら大丈夫です」
「体重の話なら?」
「何でもないです」
「……?」
危ない。
言えるわけない。
歩くたび。
胸が。
腕に。
「……」
やめろ。
思い出すな。
「一ノ瀬くん?」
「はい」
「顔赤くない?」
「朝なんで」
「何それ」
「分かんないです」
スープを。
飲む。
誤魔化す。
「それで?」
「はい?」
「マンション着いてから」
「ああ」
「私、ちゃんと帰れた?」
「帰れましたよ」
「よかった……」
「一回目は」
「……一回目?」
主任が。
顔を上げる。
「何?」
「部屋まで送って」
「うん」
「主任が中に入ったんで」
「うん」
「俺、帰ったんですよ」
「……」
「扉閉めて」
「うん」
「何歩か歩いたら」
「……」
「ガタンって」
「…………」
主任の顔が。
固まる。
「戻ったら」
「……」
「玄関で転んでました」
「…………」
「片方だけ靴履いたまま」
「……待って」
「完全に靴に負けてました」
「やめて」
「転んだっていうか」
「詳しく言わなくていい!」
「面白かったんで」
「最悪……」
主任が。
両手で。
顔を覆う。
「それで」
「まだあるの?」
「むしろここからです」
「聞きたくない」
「じゃあやめます?」
「……」
「……」
「聞く」
「どっちですか」
「怖いけど聞く」
「じゃあ」
パンを。
一口食べる。
「玄関に置いて帰るわけにもいかないんで」
「……うん」
「ソファまで連れていきました」
「それで一ノ瀬くんが家にいたんだ」
「そうです」
「……ごめん」
「いいですよ」
「水とか」
「飲ませました」
「……」
「めちゃくちゃ嫌がってましたけど」
「ごめんなさい」
「あと一口って言ったら飲みました」
「子どもじゃん……」
「俺もそう思いました」
「言わなくていい」
主任が。
恥ずかしそうに。
スープを飲む。
「……」
しばらく。
静かになる。
「一ノ瀬くん」
「はい」
「……私」
「はい」
「他に」
「……」
「変なことしてない?」
「……」
俺の手が。
止まる。
主任が。
不安そうに。
こっちを見ている。
「その間」
「いや」
「何?」
「……してますね」
「え」
主任の顔が。
一瞬で変わる。
「何した?」
「聞きたいです?」
「その聞き方やめて」
「じゃあ」
「言って」
「……」
思い出す。
帰ろうと。
立ち上がった俺の手を。
主任が。
握った。
そして。
小さな声で。
『……いかないで』
「……」
いや。
無理。
そのままは。
言えない。
「俺が帰ろうとしたら」
「うん」
「腕掴まれました」
「……私に?」
「他に誰がいるんですか」
「……」
「で」
「……うん」
「『行くな』って」
「…………」
止まった。
主任が。
完全に。
止まった。
「…………私が?」
「主任が」
「……嘘」
「ほんとです」
「私、そんなこと言った?」
「言いました」
「行くな?」
「はい」
「……命令形?」
「結構な圧でした」
「…………」
「怖かったですよ」
「絶対嘘」
「ほんとですって」
「私そんな言い方しない」
「酔ってましたからね」
「……」
「帰ろうとしたら、ぎゅって」
「……」
「全然離してくれなくて」
「やめて」
「俺、帰りますって言っても」
「もういい」
「『行くな』って」
「言わないで!」
主任が。
顔を赤くする。
「最悪……」
「俺が?」
「私が!」
「びっくりした」
「……忘れて」
「無理です」
「忘れて」
「面白かったんで無理です」
「一ノ瀬くん」
「はい」
「嫌い」
「朝飯食べてから言ってください」
「もう食べてる」
「じゃあ食べ終わってから」
「……ほんと嫌」
主任が。
顔を赤くしたまま。
パンを食べる。
「……」
笑いそうになる。
もちろん。
本当は。
『行くな』
じゃない。
もっと。
小さな声で。
もっと。
弱く。
『……いかないで』
そう。
言われた。
あの声は。
今でも。
ちゃんと。
覚えてる。
たぶん。
しばらく。
忘れない。
でも。
それを。
本人に。
そのまま伝えるのは。
なんとなく。
できなかった。
「……それで?」
主任が。
まだ。
顔を赤くしたまま。
聞く。
「何です?」
「腕掴んで」
「はい」
「……そのあと」
「ああ」
「何で一ノ瀬くん、床で寝てたの?」
「主任が離してくれないからです」
「……」
「仕方なくソファの横に座って」
「うん」
「寝たら帰ろうと思ってました」
「……」
「俺も寝ました」
「…………」
「以上です」
「ほんと?」
「ほんとです」
「……」
主任が。
少しだけ。
迷う。
「何です?」
「……何も」
「何も?」
「……」
たぶん。
聞きたいことは。
分かった。
「何もしてないですよ」
先に。
答える。
「……」
主任が。
俺を見る。
「ほんとに?」
「ほんとです」
「……そっか」
明らかに。
安心した顔。
「というか」
「何?」
「何もしてないことに感謝してください」
「……は?」
「酔っ払った主任を部屋まで送って」
「うん」
「玄関で転んだ主任を助けて」
「……うん」
「水飲ませて」
「うん……」
「帰ろうとしたら『行くな』って捕まえられて」
「それはもう言わないで」
「挙げ句、俺は床で朝までです」
「……」
「これ、結構感謝されてもいいと思うんですけど」
「介抱してくれたことには感謝してる」
「そこだけ?」
「そこだけって」
「何もしてないことは?」
「それは当たり前でしょ」
「……まあ」
「それに」
主任が。
パンを。
一口食べる。
「私、三十四だよ?」
「……はい」
「一ノ瀬くんからしたら十個も上だし」
「……」
「そんな気にもならないでしょ」
「…………」
危な。
今。
普通に。
むせそうになった。
「一ノ瀬くん?」
「……何ですか?」
「何その顔」
「いや」
「変なこと言った?」
「……別に」
そんな気にも。
ならない。
「……」
昨日。
腕を組まれて。
歩くたび。
柔らかい感触がして。
どこを見ればいいのか。
分からなくなって。
シャツの。
開いた胸元を。
見ないようにして。
『いかないで』
なんて言われて。
手まで。
離してもらえなくて。
「……」
そんな気にも。
ならない。
どころか。
「一ノ瀬くん?」
「はい」
「またぼーっとしてる」
「主任」
「何?」
「男にそういうこと言わない方がいいですよ」
「……え?」
「いや。何でもないです」
「何それ」
「とにかく」
スープを。
一口飲む。
「何もしてないです」
「……うん」
「安心してください」
「してるよ」
「ならいいです」
主任は。
たぶん。
分かってない。
三十四とか。
十歳上とか。
そんなの。
俺にとっては。
今さら。
何の関係もない。
というか。
昨日の俺が。
どれだけ大変だったか。
主任は。
一生。
知らなくていい。
「……」
主任が。
少しだけ。
視線を落とす。
「でも」
「はい?」
「ありがとう」
「……」
さっきまでとは。
違う。
少し。
真面目な声。
「昨日」
「はい」
「送ってくれて」
「いいですよ」
「家の中まで」
「玄関で転んだのは主任なんで」
「それは忘れて」
「無理です」
「……」
「あと『行くな』も」
「一ノ瀬くん」
「はい」
「朝ごはん片付けるよ」
「すみません」
主任が。
笑う。
俺も。
笑う。
「ほんとにありがとう」
「……はい」
それだけ。
なのに。
妙に。
嬉しかった。
昨日。
腕を組んで歩いたこと。
手を握られたこと。
『いかないで』
と言われたこと。
そして。
今。
主任が作った。
朝飯を。
二人で食べていること。
全部。
主任にとっては。
酔った次の日の。
ちょっと恥ずかしい出来事。
なのかもしれない。
でも。
俺にとっては。
たぶん。
違う。
「……」
また。
一つ。
好きになった。
そんな気がした。