天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
プロローグ


ここは心臓血管外科を中心とする最先端医療で名高い大病院『ホワイトローズ・メディカルセンター』、通称『白薔薇(しろばら)』。

中でも『ロイヤルフロア』と呼ばれるこの特別入院棟は、資産家や政財界の要人、著名な経営者などが利用する国内屈指の高級医療施設である。

その一室で、白薔薇に多額の資金援助をしている資産家・黒芭貞平(くろばさだひら)は、自身の命を救った外科医・滝沢黎士(たきざわれいじ)と静かに対話していた。

「今、私がこうして生きているのは、君のおかげだ。どれだけ礼をしても足りまい」

このロイヤルフロアには医師の指名制度が存在する。

富豪たちはよりよい医療を求めて医師を厳選する。さながらオークションのように、優秀な医師の価値は跳ね上がっていく。

中でも、近年この白薔薇にやってきた若き天才外科医・黎士の指名料は破格だ。

メス一振りで数千万――それでも年間何十億という金を動かす貞平にとっては、命を救われた対価としてはあまりにも安い。

「個人的な礼がしたい。好きな額を言うがいい」

しかし、当の黎士は涼やかな微笑を携えたまま、じっと中庭の木々を眺めている。

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