天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
ものすごく面倒だが心を押し殺し愛想笑いを浮かべている――そんな印象だ。これもTPOだろうか、物陰でため息をついていそうだ。

一方でスタッフステーションは、本人が立ち去ったあとも色めき立っていた。

「ああ、行っちゃった……!」

「でも、つれないところも素敵だよね」

「全女子に平等なのが尊い……! モテる男の鑑だわ」

「あれで独身っていうんだから、びっくりだよね」

看護師たちのそんなやり取りを聞き、藍衣はぎくりとして肩を竦めた。

(黎士さん、やっぱり婚約の話、周りに伝えてないんだ……)

周囲の反応から見て、薄っすらそうなのではないかと思っていた。

(彼と婚約したこと、伝えた方がいい……よね)

今説明しなければ後々もっと気まずいことになる。

だがこの場で名乗り出るのはいかがなものか。それに、黎士の断りもなく勝手に言いふらすのも……。

どうしたらいいかと困惑していると、藍衣の背後で足音が止まった。

「残念だけど、滝沢先生は独身じゃないわよ」

そう言って話に割り込んできたのは一葉だ。周りが一斉にどよめく。

「そうなんですか!?」

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