天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
少々固い様子で「お疲れ様です」と一礼する彼女に手を振り、部屋を出る。

これが黎士の、遅すぎる初恋の始まりだった。




ハンカチはクリーニングで染み抜きし、お菓子とセットで返却した。

お礼に食事を奢ると誘ったが、そこまでされる義理はないと丁重にお断りされてしまった。

(生まれて初めて、自分から食事に誘った……)

そして断られた。

その事実がとても新鮮で、断られたショックより、初めてのことを成し遂げた達成感が大きい。

その後、薔薇の植え替えを手伝った礼としてジェラート屋には付き合ってもらえたのだが。

「次は少し遠出しよう。前に黒芭さんが話してた青山のレストラン、行ってみたい」

「行きません。プライベートでご一緒する理由がありません」

つれない彼女に、何度も何度も誘いを断られた。

知らない人には好かれるのに、意中の人にはどうして好いてもらえないのだろうと、黎士は頭を抱えた。

もしかしたら自分は容姿と手術の腕がいいだけの男で、内面的な魅力はないのかもしれないと自信を喪失した。

「ほかのスタッフを誘えばいいじゃありませんか。喜んでついてきますよ?」

「俺は黒芭さんと行きたいんだけど」

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