天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
藍衣にとっては、温厚で優しいおじいちゃんなのだが。今回の決定ばかりはどうも腑に落ちない。

「お祖父様は、どうして無理やり嫁がせるような真似をするんでしょう……」

思わず漏れたひと言に、運転席の栢森が反応する。

「それはもちろん、相手が若くて非常に優秀な医師だからではないでしょうか。性格は知りませんが、金銭面では安泰ですからね。嫁ぎたいと名乗り出る女性はほかにたくさんいるでしょうから、藍衣さんは幸運ですよ」

「結婚に大事なのはお金ではないでしょう?」

「見た目もいいそうですよ。風の噂ではありますが」

「見た目でもないでしょう……」

どこか能天気な返答をする栢森に、ふうとため息をつく。

今さら足掻いたところで現実は変わらない。顔を上げて視線を前に向ける。

姉の仇との、望まない結婚。

もしも顔を見るのも嫌になるくらい最低な男だったら、すべてを捨てて逃げ出してしまおうか、そんな物騒な決意を胸に、藍衣は目的地に着くのをじっと待った。

レジデンスに到着すると、車寄せでバレーサービスに車を預け、ふたりは建物の中に向かった。

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