天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
とくに気に留めず、担当患者の回診を終えて医局に戻ろうとすると、緊急の呼び出しを知らせる端末が白衣のポケットの中で鳴った。

『転落事故による負傷者二名の受け入れ要請。一名は腹部打撲、内臓損傷の可能性あり。一名は頭部外傷、意識レベル三桁』

急いで救急の処置室に向かう。そこでストレッチャーに乗せられて運び込まれてきたふたりの女性を見て黎士は愕然とした。

腹部を押さえてぐったりとしている女性は、つい先ほどまで会話をしていた朱璃。

そして、頭部から一筋の血を流し意識を失っているのは――。

(どうして藍衣が……!)

コンシェルジュの制服を着たままの彼女。なぜこんなことに、そう叫びたいのをぐっと堪え、今自分がするべきことに集中する。

「モニターつけて! 気道は!?」

「自発呼吸あります! サチュレーション九十二。血圧一一〇の七〇」

「安定しているな。CT準備!」

間髪入れず駆けつけてきたのは脳外の医師だ。腕が立つと名高いベテランの男性だった。

頭部外傷、ましてや手術となる可能性があるなら専門医に任せた方がいい。彼女を自分の手で救えない悔しさを覚えながらも、より助かる道をと冷静な判断を下す。

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