天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「あ、藍衣はちゃんと朝ご飯、食べるんだぞ。朝が苦手ならスープだけでもいいから。栄養を取らないと治るものも治らない」

そんな医師らしいひと言を残してリビングを立ち去る。

(……変な人だけど……優しい)

予想していた同棲生活と違って、調子が狂う。

それにしても、朝が苦手だなんて教えた覚えはないのに、なぜ知っているのか。

首を傾げつつも、まあ偶然だろうと納得する。

彼が仕事に行ったあと、リビングの真ん中に立って家の中をくるくると見回した。

ひとりきりの家。これからなにをする?

まずは朝食、そして洗い物。洗濯は勝手にしてもいいだろうか?

それから昼食の前に部屋の掃除を――いや、詰め込み過ぎだ。つい先日まで丸一日部屋の中で療養していたのだから、急激に活動するのはよくない。

はやる気持ちをぐっと押さえて深呼吸する。

選択肢が無数にある。実家に閉じこもっていたときとは大違いだ。

(やりたいことを、なんでもできる……)

暗いトンネルを抜けて視界が一気に開けたときのような解放感。無理やり婚約させられたというのに、わくわくしてしまっている自分がいる。

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