天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
父が言うような残虐な人物であったなら、夜間に襲われるのではないか、そんな警戒心も一応は持っていたが、問題なく朝を迎えた。

彼は約束した通り、藍衣に近づいてこない。階段を上ってくる気配さえない。

居住スペースを一階と二階で分けたことで、お互いの存在をほとんど意識しないで生活できる。部屋に入ってしまえば、プライバシーが十分に保たれる。

こちらの意思も聞かずに無理やり婚約させる、そんな横暴さの一方で、彼自身には横暴な振る舞いがまるで見られない。

(一体、なにを考えているのか……)

朝七時。部屋着のままリビングに向かうと、すでにワイシャツに着替えた彼がネクタイを締めながらキッチンに入っていくところだった。

「おはよ」

階段を下りてきた藍衣にちらりと視線をやって、冷蔵庫を開ける。

「おはようございます。……すみません、朝食の用意もせずに」

「そういうのはいいって言ったはずだ。それに、朝はいつもこれだから」

そう言って取り出したのはゼリー飲料だ。キャップを開けてちゅうっと吸い込む。

「藍衣は慣れない環境で疲れているだろ? 今日一日、ゆっくり休んでいるといい」

「はい……」

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