天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
とても初対面とは思えない。やはり面識があるのではないか。

記憶を失っている間に会ったことが? だが、彼は確かに『初めまして』と言っていた。

「藍衣」

不意に呼びかけられて視線を戻すと、目の前に真摯な表情の彼がいた。

血圧を測ったばかりの手を、そのままきゅっと握られる。彼はその手を持ち上げて、自身の口元に持っていった。

「これ以上、心配させないでくれ」

思い詰めたような目で藍衣を見つめる。

その声はまるで大切なものをすでに一度失っているかのような切実さが滲んでいた。

「黎士、さん……?」

なぜ彼はそこまで真剣に訴えかけてくるのか。

戸惑う藍衣をよそに、彼は立ち上がると、ベッドの脇に座り直した。

顔を近づけてきて――これでもかというほど近づけてきて、ぽつりと呟く。

「もう二度と、俺のもとからいなくならないでくれ」

掠れた声と蕩けるような眼差しに思考が鈍った。

男性のそんな顔を見るのは初めてで、そんな言葉をかけられるのも初めてで。甘い吐息に黎士の美貌が上乗せされて、視線が釘付けになる。

そんな麻痺状態の藍衣に、まるで不意打ちを食らわせるかのごとく、黎士が顎を反らせ唇を開く。

< 44 / 252 >

この作品をシェア

pagetop