天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
避けるという思考も働かずに呆然としていると、彼の唇がちゅっという甘い音を響かせて藍衣のそれに吸い付いた。

(えっ――)

今度こそ頭の中が真っ白になったのは、生まれてこの方、キスなどしたことがなかったから。しかもその相手が、依然として謎めいた婚約者で、姉の仇だったからだ。

思考回路がショートして頭の中で火花が散った、気がした。

「……っ……」

逃げ出したくても体が凍り付いたかのように動かない。

そうしている間にも、黎士のキスが熱を帯びてくる。

「……藍衣……」

甘い吐息を漏らしながら、彼が手を後頭部に回してくる。逃がさないとでも言うように強く藍衣の頭を支えた。

確かに彼は婚約者で、藍衣には結婚を拒否する権利などなくて、キスされても拒めない立場にはあるけれど。

(……でも、愛のない人とするのは!)

理性が脳内で必死に警鐘を鳴らす、その一方で。

(……あれ?)

なぜか藍衣の唇は勝手に動き出し、彼の舌を受け入れたので、自分でも驚いてしまった。

こんな情熱的な口付けなど経験がない――はずなのに。

「んっ……」

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