天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
あの頃の自分とは程遠く、気持ちが落ち込む。早く部屋を出たい、そう思ってはいるが、なかなか父の許しが出ない。

(体はもうなんともないはずなのに……)

一年前、藍衣は階段から落ちて頭を強く打った。外傷こそ酷くはなかったものの、打ち所が悪かったせいで、事故以前の約一年分の記憶を失っている。

事故当時は頭痛も頻繁に起こり、ここで寝たきりに近い生活を送っていた。

主治医からはなるべく脳に刺激を与えないようにと言われ、外出や運動、IT機器の使用を制限されていた。

今は頭痛も治り、IT機器に関する制限は解除されたが、事故でスマホは大破。パソコンやメーラー、チャット機能などはログインできず、パスワードをメモしていたはずの手帳は見つからない。過去を知る手がかりはゼロだ。

外出については、いまだできずにいる。

(ずっと家の中じゃ、戻る記憶も戻らない)

主治医は今でも安静にしろと言うけれど、本当にそれが最善なのか、藍衣は懐疑的だ。外に出て刺激を受けた方が記憶が戻るのではないだろうか。

いい加減、外に出たい。仕事にも復帰したい。

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