天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
そんなことを考えていたとき、誰かが部屋のドアをノックした。

『藍衣さん、お茶をお持ちいたしました。お加減はいかがですか?』

「どうぞ」と返事をすると、藍衣専属の使用人・栢森(かしわもり)が鍵を開けて部屋の中に入ってきた。

栢森は三十歳の男性で、執事然としたスーツを着ている。真面目で礼儀正しく信頼できる人間だが、ほんの少しだけ押しに弱い一面がある。

チャンスとばかりに、藍衣は彼に詰め寄る。

「さっきの一件、一体なにがあったんでしょう……栢森さんは事情をご存じですか?」

すると、彼は気まずそうに目を逸らし、窓際のテーブルに紅茶の準備を始めた。

「大したことではございませんよ」

「教えてください。秘密は漏らしませんから」

彼の視線の先に割り込んで、強い眼差しで説得する。

「あそこまで父が声を荒らげるなんて、おかしいと思うんです。栢森さんの名前は出しませんから、お願いです、教えてもらえませんか?」

手を合わせて懇願すると、栢森は案の定「実は――」と切り出した。

「貞平様の秘書が伝言を預かってきたのです。……藍衣さんのご結婚について」

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