天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「私の結婚……縁談でしょうか。どうしてお祖父様までそんなことを」

嫁がせたがっていたのは父だけではなかったのか。

先を促すと、彼は「これ以上、私の口からは――」と躊躇う仕草を見せた。

「ここまで来たら、言うも言わないも一緒です。あなたから聞いたなんて絶対に言いませんから、安心してください」

力強く約束すると、彼は「絶対に内密にお願いいたしますよ?」と念を押した。

(……この人、本当は秘密を漏らすのが好きなのでは?)

だが、ありがたいのでなにも言うまい。両手を合わせて、息を呑んで彼の言葉を待つ。

「――藍衣さんの結婚が決まったと。貞平様にご恩のある方に、嫁がせる意向のようです」

その内容にはさすがに衝撃を受けて、目を大きく見開いた。

〝縁談が決まった〟ではなく、〝結婚が決まった〟とは。

騒ぎ出したい気持ちをぐっと押さえ、拳を強く握りしめた。

「相手は誰です? それも聞いているんでしょう?」

「貞平様の心臓の手術を執刀された医師だそうです。名前は確か〝タキザワ〟と」

――滝沢黎士。

ぞわりと背筋に震えが走る。

< 10 / 252 >

この作品をシェア

pagetop