さようなら、お別れしましょう
「たかーい!」

 女の子は目線が高くなり、大喜びだった。
 ハリルがジッとジグルズ様と女の子を見ていることに気づいた。
 ジグルズ様もハリルの視線に気づいたようで、ハリルを見て笑った。

「なんだ。ハリルもしてほしいのか?」
「ち、違います! おれは子供じゃないし!」

 どう見ても子供なハリル。
 そして、羨ましいと思っているのが顔に出ていた。
 でも、ハリルは子供だと思われたくなくて、ぐっと我慢していた。

「そうか。ハリル、お前はえらいな」

 ジグルズ様は空いているほうの手で、ハリルの頭をなでた。
 ハリルは顔を赤らめ、少し泣きそうになっていた。
 ハリルにとって、ジグルズ様は憧れの人であり、父親のような存在――本当は甘えたい気持ちを隠している。
 頭をなでてもらって、うれしそうな顔をしているハリルを眺め、ふと思い出した。 

 ――私は誰から頭をなでてもらった記憶がない。

 後宮を出ていったお母様は、私をなでてくれたことがあったかもしれないけど、小さかったからか私は覚えていなかった。
 ジグルズ様とハリルの姿を見ていると、ジグルズ様の琥珀色の目がこちらへ向けられた。

「ん? レフィカも頭をなでてほしいのか?」
「えっ……!? ち、ち、違います!」

 顔に出ていたらしく、両手で頬を覆った。
 ジグルズ様はふっと笑って、私の頭をなでてくれた。

「よく頑張ってる」

 ジグルズ様に甘えたいと思うハリルの気持ちが理解できて、ふふっと笑った。

「頭をなでてもらったのは、生まれて初めてです」
「レフィカ様は両親がいたんじゃ……」

 ハリルは私の顔をまじまじと見つめた。

「お父様は遠い存在でしたし、お母様は後宮を出ていってしまったので、それから一度も会っていません」
「そうなんだ……」
「でも、母が違うお姉様の中で、一人だけ私に優しかったお姉様がいたんです」
「イレーネ王女か」

 ジグルズ様の琥珀色の瞳の中に、私がいた。

「はい。私の自慢の姉なんです」
「……そうか」

 私の頭をなでたジグルズ様の指に、銀色の髪が絡まり、目があった――その瞬間。

「なんだか家族みたい!」

 女の子が無邪気な声で放った何気ない一言。

「もしかして、夫婦?」

 その一言が、私とジグルズ様の動きを止めた。
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