さようなら、お別れしましょう
「は、はい」
「もちろんです」
 
 女の子は満面の笑みで、私のところまで走ってきた。

「お妃さま、ありがとう!」

 お礼を言って、私の頬にキスをすると、また両親の元へ走って戻っていった。

「こ、こらっ! そんな気軽に触れていいお方じゃないんだぞ!」
「えぇ~! だって、親切にしてもらったら、ありがとうって言いなさいって、お父さんとお母さん、いつも言ってるよ?」
「も、申し訳ございません!」

 女の子の両親は、最後まで頭を下げていた。
 私は家族を見送り、見えなくなるまで手を振った。

「素敵な家族ですね」
「どこにでもいる普通の家族だが、俺もそう思う」
 
 ジグルズ様の本心はわからない。
 でも、並んで見送った私たちは、同じ気持ちでいるような気がした。

 ――あんな家族になりたかった。

 遠く手に入らない世界が、私の前から消えていく。
 命が尽きる前に、私は家族を持てるのだろうか。
 左胸に手を置いた。
 私は後どれくらい生きていられるのかわからない。
 自分の命であって、自分の命ではない。
 私の命は父と夫のもの。
 ずっと【契約】に縛られ、生きていくのは苦しすぎる――
  
「さて、レフィカ」
「は、はいっ!」

 ジグルズ様に名前を呼ばれ。顔を上げた。
 私を呼んだのに。ジグルズ様の視線はなぜか、私のほうでなく、暗い路地のほうに向いている。
 路地の陰に、一瞬だけ人影が見えたような気がしたけれど、今はいない。

 ――誰かこちらを見ていたような気がしたわ。でも、ジグルズ様に変わった様子はないし、私の気のせい?

 ジグルズ様が町や人を観察するのは、いつものことである。
 動じてないジグルズ様を見て、私の気にしすぎだったかもしれないと、思い直した。

「俺からレフィカに相談がある」
「ジグルズ様からの相談ですか!?」

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