さようなら、お別れしましょう
 母が私を置いて、後宮から出ていった日から、我慢をすることが当たり前になった。
 きっとジェレンは、自分の味方になり、望みを叶えてくれる優しい両親のもとで育った。

「もっと夫への不満を口にしてもよろしいのではありませんか?」
「……むしろ、イーザック様が私に不満だったのではないかしら」
「そんなことありません!」
 
 ジェレンは力強く否定した。

「女性として興味を持てないと言われては、妻でいるのを諦めるしかないでしょう」
「そ、それは……」
「別居されてしまいましたが、私の立場は正妃です。これからは、妻ではなく妃として、お役に立てるよう頑張るつもりです」 
「妻として愛されることを諦めるおつもりですか? それに、妃として貢献するなんて、人が良すぎます!」
 
 ――どれだけ頑張っても、イーザック様は私を認めてくれないし、愛してくれない。
 
 イーザック様の美しい琥珀色の瞳が、私を冷たく見つめていたのを思い出す。
 この先も、私に興味を持たないという絶対的な意思を感じた。
 それでも、私は妃。
 この左胸に【契約】がある限り、私は妃であり続けなくてはならない。
 そうでなければ、私に待っているのは『死』である。

「妻が駄目でも、妃として頑張らなくては、お父様が許さないでしょう」

 ジェレンや侍女たちが、怯えたように、体を震わせた。
 自分に逆らう人間を許さない父。
 父の苛烈な性格を誰もが知っている。
 私が別居され、なにもしないままでいたら、お父様は用済みとして、私を殺すよう配下に命じるはず。
 下手すれば、侍女たちも同罪と見なし、巻き添えにあう。

 ――お父様は私を娘ではなく、道具としか思っていない。役に立たない人間はすぐに見限って捨てるわ。
 
「レフィカ様。妃として頑張るとおっしゃいますが、なにをなさるおつもりですか?」
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