さようなら、お別れしましょう
 町の人々はハリルを知っているらしく、誰もハリルを止めなかった。

「レフィカ様。あんな小さな子が町の警備だなんて、冗談でしょうか?」

 ジェレンも信じていなかった。
 でも、私は違う。

「あの男の子が言っていることは、本当ですよ。あの子の額飾りは本物の銀だと思いますし、子供用の剣には、大きな琥珀が一つついています」

 宝石を身につけるのは、身を飾るだけでなくお守りとしての意味もある。
 ハリルが持っている子供用の剣は、お守りとして渡されたものなのかもしれない。
 太陽の光に似た琥珀が、美しく輝いている。

「さすが、レフィカ様は後宮で生まれ育っただけあって、目が肥えていますわね」
「自分の財産はありませんけど、見るのはタダですからね」

 普通の子供ではないとわかったけれど、ハリルがうまく、大人相手に事態を収拾できるかどうかは別である。
 私もジェレンも、心配でこの場を離れられなかった。

「はいはい、ちゃんと並んで!」
「このっ! 俺に触るな!」

 無理に列に並ばせようとしたのが悪かった。
 イライラしていた商人が、衝動的にハリルを殴ろうとして、手を振り上げた。

「危ない!」

 殴られる――それを見て、とっさに人混みから飛び出した。

「レフィカ様!」

 ジェレンが悲鳴に近い声で、私の名前を呼んだ。
 手が振り下ろされるかどうか、ギリギリのところで、ハリルを突き飛ばした。

 ――間に合った!

 安心したのは一瞬だけ。
 飛び出し、勢いづいた私の体は前のめりになり、そのまま前に倒れかけていた。
 ジェレンの『ひっ!』という声が背後から聞こえる。

「……っ!」
 
 転んだと思った瞬間、私の体を大きな手が支えた。
 私と商人の間に、割って入ってくれた人がいた。
 空いているほうの手で、商人の動きを封じてくれたらしく、私が殴られることはなかった。
< 63 / 194 >

この作品をシェア

pagetop