さようなら、お別れしましょう
14 生き延びる手がかり(2)

「おい。あの銀髪、ドーヴハルク人じゃないか?」

 落ち着きを取り戻した人々の視線が、私へ注がれていることに気づいた。
 かぶっていたフードが肩に落ち、銀髪が衆目にさらされていた。
 
「ドーヴハルク人だ。すごい美人だな。純銀の髪色ということは、貴族か……まさか、王族か?」
「グランツエルデ王国内にいるとは珍しい」
「いや、そうでもないだろう。たしか王妃は……」

 同じ銀髪でも違いがあったなんて、私は知らなかった。
 ドーヴハルク王国では髪色にこだわる人はおらず、私は容姿を褒められたことがなかった。
 ジェレンが青い顔をし、私を見て焦っている。
 貴族令嬢のジェレンも美しい銀髪だったし、侍女たちもそうだ。
 思えば、後宮育ちの私と貴族令嬢として教育を受けたジェレン。
 私たちは限られたドーヴハルク人としか、顔を合わせる機会がなかったのだ。

 ――どうしよう。このままでは、大騒ぎになってしまう。

 今さら遅いと思いながら、銀髪を隠そうと、フードに手をやると、その手をつかまれた。
 
銀髪を隠せず、『なぜ?』と見上げたら、ジグルズ様はグランツエルデ人のはずなのに、敵国の人間である私を優しい目で見ていた。

「お前たち、彼女の美しい銀髪に見惚れてしまったか?」

 ジグルズ様が話し出すと、みんなが注目する。
 この町を治める領主である彼が、なにを話すのか気になるのは当たり前。
 町をここまで大きくした領主である。
 
「異国の人間がそんなに珍しいか? ここは商業都市シャルク・ホジャ。どこの国の人間であっても、利益をもたらすのであれば歓迎する」
 
 ジグルズ様は私に手を差し出し、握手を求めた。
 私が握手すると、険しかった人々の顔が笑顔に変わり、明るい雰囲気になった。

「ジグルズ様の言う通りだ。シャルク・ホジャはどこの国の人間であっても、受け入れる」
「誰が商売しても構わない自由な町なんだからな!」

 ――まるで、太陽みたいな人。

 イーザック様と同じ琥珀色の瞳なのに、その瞳には温かみがあった。

「あの……ジグルズ様……」

 神妙な顔つきをしたハリルが、ジグルズ様の前におずおずと進み出る。

「騒ぎを起こした商人はどうしますか……?」
「そうだな。暴力には罰を与えなくてはならない」

 その言葉に、全員が静まり返り、もう誰も私を見ていなかった。
 ジグルズ様がどうするか、誰もが注目していた。
 ジェレンが私のそばにやってきて、そっと耳打ちした。

「あの、レフィカ様……。もしかして、あの方がジグルズ・ベルクヴァイン公爵様でしょうか?」
「ええ。イーザック様のお兄様ですね」

 グランツエルデ王国の貴族の名をすべて記憶しているジェレン。
 それは私も同じ。
 この国に嫁いだ時、国王補佐官から、『顔を合わせた時に失礼がないように』と、貴族の名前と情報が書かれた分厚い名簿を渡された。
 顔と名前は一致してないものの、名前を聞けば、少しはわかる。
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