さようなら、お別れしましょう
 ジグルズ・ベルクヴァイン公爵――イーザック様の異母兄で、王位継承権を放棄し、領地で過ごすことが多いと記述されていた。
 イーザック様に似ていると感じたのは一瞬だけで、容姿はあまり似ていない。
 イーザック様は細身で綺麗な顔立ちで、繊細そうな印象を受ける。
 けれど、ジグルズ様はどちらかというと男性的で、自信に溢れ、堂々とした態度と生命力の強さをかんじさせる。
 そこにいるだけで、場が明るくて人の目を引く。
 一言で彼を表すとするならば――王。
 統治者の空気を纏っている。
 ジグルズ様は人々が落ち着いたのを見て、この事態を収拾するべく、指示を出す。

「薬と食料の荷に印をつけ、急いで運ばせろ。薬と食料は、優先に許可を出してやれ」
「はい!」
「通行の許可が出るまで滞在できる宿がある。他の宿より安い料金だ。申し訳ないが、そちらを利用してくれ」
「ジグルズ様とお話できて光栄でございます! 宿を利用させていただきます!」

 さっきと大違いで、ジグルズ様が話しただけで、あっという間に解決した。
 揉め事が片付くと、次は住人たちが集まってきた。

「ジグルズ様っ! お元気ですか?」
「こんにちは、ジグルズ様。よかったら野菜を持っていってくださいな」
「いいのか? 旦那に怒られるぞ」
「ジグルズ様にうちの畑で採れた野菜をあげたって言ったら、怒るどころか旦那から褒められますよ」

 野菜を売っていた女性は豪快に笑った。
 ジグルズ様に話をしたい人々が、どんどん集まってきてキリがない。

「ジグルズ様、うちの生まれたばかりの孫に名前をつけてください」
「猫がね、子猫を産んだの!」

 大人から子供まで、ジグルズ様に駆け寄ってくる。

「わかった、わかった。順番にな」

 ジグルズ様は嫌な顔一つせず、一人一人の話を笑って聞いている。
 
 ――まるで、全員が家族みたい。

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