さようなら、お別れしましょう
 ジェレンはジグルズ様だと、はっきりわかると頭を下げ、私から少し離れた。

「ご存じかと思いますが、今の私は妃と呼ばれるような立場ではありません。私のことは名前でお呼びください」
「……わかった」

 やはり、ジグルズ様は私が別居されたことまで知っている。
 イーザック様が新しい妻を迎えたこともわかっているのか、こちらを気遣うような表情を見せた。
 このまま、気まずい空気になりそうだったので、明るい声で話した。

「シャルク・ホジャはとても賑やかな町ですね。初めて見るものばかりです。それにドーヴハルク王国より暖かくて、マントを羽織っていると暑いくらいですわ」
「旅をしていた頃、ドーヴハルク王国には何度か立ち寄ったが、草原と森林が広がる寒い地だったな」
「ドーヴハルク王国は人より羊や牛が多かったでしょう?」
「人が多いのも困りものだ」

 シャルク・ホジャの発展は、ジグルズ様の想像を超えたものだったらしく、やれやれと肩をすくめた。

「こんなに人も店も多いと、町を治めるのも大変ですね。店の名前だけでも覚えられるかどうかわかりませんわ」
「そうか? 俺はたいだい覚えているぞ」
「まあ……! それはすごいですね!」
 
 ジグルズ様が町の人たちと親しげな理由がわかった気がする。
 彼らを一人一人ちゃんと見ているからだ。
 それが、住んでいる人にも伝わる。
 他国から人が集まり、すさまじい発展を見せる町――シャルク・ホジャ。
 ジグルズの存在が、生まれも育ちも違う人々をまとめている。

 ――ジグルズ様だったら、イレーネお姉様のことをなにか知っているかもしれない。


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