さようなら、お別れしましょう
 私が憧れる光景がそこにあった。

「町の揉め事に巻き込んで、すまなかった。怪我は?」
「えっ! あ……あの……」

 私に声をかけたのだと気づき、慌てて答えた。

「私は平気です。転ばないよう支えていただき、ありがとうございました」
「怪我がないなら、よかった。ハリル、お前からもちゃんとお礼を言え」
「は、はい! ありがとうございます……」

 ハリルは泣きそうな顔でうつむいて、元気がなかった。

「大丈夫ですか? もしかして、どこか痛めましたか?」

 私が尋ねると、ハリルは首を横に振った。

「すみません……。おれ、ぜんぜん役に立たなくて……。しかも、かばわれて……」
「ハリル。お前のせいじゃない。俺のせいだ」
 
 ジグルズ様に頭をなでてもらうと、ハリルは気が緩んだのか、緑色の瞳から大粒の涙をこぼした。
 ハリルはジグルズ様の役に立ちたくて、頑張っていたのだ。
 それをジグルズ様もわかっている。

「豊かになるのはいいことだが、この町を安全で住みやすい町にしなくてはならない。ハリル、これからも俺を助けてくれるな?」
「も、もちろんです!」
「泣いてる暇はないぞ。ハリル、お前に新しい仕事だ。この金で、彼女にお礼をしたい」

 ハリルは泣き止み、差し出された金貨を見つめた。

「美味しい菓子を買ってきてくれ。菓子のことは、俺よりお前のほうが詳しいからな」
「はっ、はいっ!」

 ハリルは姿勢をただし、ジグルズ様から金貨を受け取ると、笑顔で走っていった。

「さてと……。自己紹介は必要か? レフィカ妃?」
「いいえ。じゅうぶんですわ。ジグルズ・ベルクヴァイン公爵様」
「堅苦しいのは好まない。名前でいい」
「では、ジグルズ様」

 銀髪や服装、連れている侍女の様子からわかったのか、ジグルズ様は私の正体に気づいていた。
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