さようなら、お別れしましょう
 私がなにを言わんとしているか、ジグルズ様はすぐに察した。
 ジグルズ様に自分たちから話かける社交性、役人の仕事を手伝おうとする自立性。
 それらを踏まえ、この町の人々であれば、うまく町を動かしていくのではないかと思ったのだ。

「シャルク・ホジャの住人に自治権を与えるか……」
「人を雇う手間や町の管理に人員を割かれることがなくなります。税収は減りますが、自治権を与える代わりに、都市が得た収入の何割かを上納金として、公爵家へ納めていただきます」
「金だけもらえと?」
「いいえ。上納金で、公爵家は兵力を持たないシャルク・ホジャに代わって、都市を守るのです」
「なるほど。よく考えられている。レフィカ妃……いや、レフィカ。驚いた。よく勉強しているな」

 驚いたのは私のほうだ。
 私の話を真面目に聞いてもらえたのは、イレーネお姉様以外で初めてだ。
 ジグルズ様は寛容で、頭の回転も早く人望もある。

 ――どうして、ジグルズ様は王位継承権を放棄したのかしら?

 公爵でありながら、町を見回り、問題を解決するくらいだから、責任感がないという理由ではなさそうだ。

 ――なにか、王にならなかった事情があるのかもしれない。 

「ジグルズ様! 申し訳ありません!」

 遠い通りの向こうから、赤い髪の女性が謝りながら走ってくる。

「ハリルがお礼の菓子を買いに行くと言っていて……。息子がまたなにかやらかしたのでしょうか!?」

 赤い髪の女性は、ハリルの母親らしく、双剣を腰に帯び、シャラシャラ音がするイヤリングや南方の服装を着ている。
 香水とは違う香木の香りが漂って、それが懐かしく感じたのは――

「あなたは商人のゼリヤではありませんか?」
「レフィカ様!」

 後宮に出入りしていた赤髪の女商人、ゼリヤだった。
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