さようなら、お別れしましょう
「別居したが、お前は仮にも俺の妃だぞ!」
「そうですね。妃として生活費をいただいております」
「金!?」
「そのぶん、なにか人々のためになるような仕事をしなくてはいけませんね」
「なにができる!」
「私にできることがあれば、お手伝いしたいと思っています」

 兄上は止めるどころか、レフィカを優しげなまなざしで見つめている。
 あの顔はレフィカを気に入った証拠だ。
 レフィカが俺を見て笑っていた。

 ――まさか、俺が嫉妬したと勘違いしたんじゃないだろうな!?

「おい、なにを笑っている?」
「いえ、イーザック様とちゃんと話をする機会がなかったので、会話ができてよかったと思っていました」
「……それくらいで喜ぶのか」
「え?」
「いや、なんでもない。兄上の手伝いでもなんでもやればいいだろう。お前がなにをしていようが、俺には関係ないことだ」
 
 これ以上、ここにいると調子が狂う。
 いつもの冷静な俺でいられない――そんな気がした。

「侍従!」
「は、はいっ!」
「王都へ戻るぞ」
「待て、イーザック」

 兄上が俺を止めた。

「なにかあれば、いつでも相談に乗る。王都まで気をつけて戻れよ」

 ――兄上。兄上に頼ることができれば、楽だろう。

 だが、それはできない。
 兄上にとって弟だろうが、俺は大国グランツエルデの王なのだ。
 頼りない弟だと言われているような気がして、兄上の言葉を無視した。
 そして、立ち去る前にレフィカに告げた。

「レフィカ。【契約】を忘れるな。一つでも破れば、お前は死ぬ」
「……心得ております」

 先ほどまで、明るかったレフィカの表情が陰り、視線を落としてうつむいた。
 どうやら、レフィカは【契約】をまったく知らないわけでもなさそうだ。

「わかっているならいい」 
 
 レフィカは【契約】があるかぎり、俺を裏切ることはできない。
 死にたくないのであれば、レフィカは【契約】を守るしかないのだ。
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