さようなら、お別れしましょう
 商人が訪れるのを楽しみにしていたのは、買い物だけでなく、外の話を聞くことができる少ない機会でもあったからだ。
 もちろん、後宮でのしきたりを破らない範囲での情報しか得られない。
 でも今なら、後宮のしきたりに縛られず、自由に情報を手入れられる。
 例えば、私がドーヴハルク後宮では、絶対に聞けなかった話――

「ゼリヤは他の王女が嫁いだ後、どうなったのか知っていますか?」
「それは……」

 他の姉妹がどうなったのか、ゼリヤに聞くことができる。
 私を気遣うゼリヤの様子からいって、他の王女が普通の状態でいられなかったのではないかと推察した。
 甘やかされ、贅沢に過ごした生活から、まったく知らない外の世界。
 今までとは違う生活環境に、戸惑わない王女はいない。

「仕事柄、他国の王宮や城にも出入りすることが多いので、知っています。ですが……」

 ゼリヤは迷っていた。

「教えてください。他の王女のことも知りたいんです」
「私が知る範囲での話になりますが、大半の王女は嫁いだ後、死の恐怖に怯え、心を病まれることが多いようです」

 心臓に刻まれた死の【契約】。
 頭ではわかっていても、死の呪いに等しい【契約】を心臓に刻まれたら恐ろしいものだ。
 【契約】を知る夫から、愛されないのであれば、【契約】を破られる可能性が高くなる。

 ――なんとなく、想像はしていたけど、幸せになれる王女は少ない……

 周囲に愛され、贅沢な暮らしていた王女であっても、等しく【契約】を刻まれる。
 辛いことがあっても【契約】で逃亡を禁止されているため、国には帰れない。
 幸せな生活から一転、死刑囚のような境遇である。

 ――たしかに【契約】は恐ろしいけど、私とイレーネお姉様は嫁いだ後を考え、行動してきたわ。

 その努力を無駄にするつもりはない。

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