True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~

EP05

 お昼を取った後の化粧室。
 三郷と琴音が化粧直しをしながら推しの話で盛り上がっている。
 後から来た私も軽く粉をはたく。
 10分後には午後の仕事が始まる。
 我ながら真面目過ぎるとは思う。
 少し肩の力を抜く程度が丁度いいのかもしれない。
 それでも仕事には真摯でありたかった。

「先に行くわね」
「はぁい」

 スイッチが切り替わるように仕事モードに入る。
 私は、午後の仕事の準備に取り掛かった。

 -*-

 2026年4月17日、17時15分。今日の業務が終わる。
 私は琴音が抱える仕事を少し手伝って、二人でロッカーに向かった。
 スマホを見てため息をつく琴音。
 私は何も言わず、そんな琴音から視線を逸らした。
 会社を出ると、西日が街を橙色に染めている。
 
「仲崎先輩〜! おまたせです!」

 ラフなカジュアルスタイルの琴音。
 キレイ系のかっちりスタイルの私。
 この辺からして私たちはもう似ていない。

「とりあえず落ち着ける場所に行こうか?」
「はい!」

 行く先はお気に入りのカフェ。
 そういえばもうずっと行っていなかったとふと思う。
 足取りが軽やかになる。
 それは久しぶりにあのカフェに足を運ぶからだろうか?

「わぁ……! 地下に潜っていくタイプのカフェなんですね!」

 琴音の言葉に私は微笑む。
 初めてこのカフェに来た時、私も同じことを思った。
 今の琴音のように、お店の雰囲気に目を輝かせていたと思う。

「お好きな席へどうぞ~」

 店員に告げられて私は琴音を連れて店内の中二階へ上がる。
 階下では黒いワンピース姿の女性がピアノを弾いていた。
 静かな旋律に耳を傾けながら、私はアイリッシュ・コーヒーを頼んだ。
 琴音はアイスミントティーだ。

「さて、聞かせて。遠距離恋愛して2年になる彼にブロックされて……あなたはどうしたいの?」

 琴音は目を伏せ、スマホに視線を落とした。

「復縁したいんですけど……、でもその前にどうしてブロックされたのか気になるんです……」
「それってもう連絡してくるなってことだと思うけど……」
「ですよね。やっぱりもう私と遠距離は続けたくないってことですよね……。それならどうして別れようって言ってくれないんだろう」

 琴音の目が潤んでいる。
 こたえが出ない疑問だけが膨らんで、不安なまま、なんとか自分を納得させようとしているのがわかる。

「会いたいときにあなたは居ない……」
「え?」
「遠距離が終わる時って、どちらかがそう思った時点で終わると思わない?」

 アイスミントティーとアイリッシュ・コーヒーが運ばれてくる。
 豊潤な香りが鼻をくすぐる。それを一口含んで、私は言葉を続けた。

「何年続けても終わる時はあっという間に終わるの。遠距離恋愛はそういうものなのよ。傷つきたくないなら追いかけない方がいい……」

 琴音は冷えたミントティーをみつめたまま何も言わなかった。
 グラスの中の氷がカランと音を立てた。

「仲崎先輩も追いかけたんですか?」

 琴音の言葉が私の心に小さく響いた。

「ううん、私は追いかけようとすらしなかった」

 私は琴音のアイスミントティーを見つめた。
 澄んだ浅黄色。

「教えてください。仲崎先輩は何年続いたんですか?」
「6年よ」

 琴音が6年と反芻する。
 どうしてそこまで長く続いたの?とその目が訴えていた。

「私の遠距離恋愛はね、ずっと彼が9で私が1の比率で成り立っていたの……それに気が付いたときはもうすべてが遅かった。そんな話を聞きたい?」

 琴音の真剣なまなざしに、私は少したじろぐ。
 この子の中ではまだ終わっていないのだと、思う。

「教えてください。先輩が良かったら――」
「私の話が参考になるならね」

 また階下の女性を見つめる。
 彼女はまだ旋律を奏でている。
 その旋律と重なるように、私は静かに語り始めた。
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