True Blue Line ~君は僕のたった一つの宝物~
第2章 知りたい
EP04
私が抱える人間関係のストレスは半端なかった。
自分に合わない職場だということはわかっていた。
やめればまた職探し地獄が始まる。
職がなければ年金が払えない。税金が払えない。滞納すれば恥ずかしい……。
立場のある社員は下の人間に失敗を押し付ける。
若い男性社員とうっかり世間話をすれば、他の女性から睨まれる。
雑務は増える一方だし、範囲外の仕事まで押し付けられる。
それでも嫌と言えない自分も。
そうせざるを得ない立場も環境もすべてが嫌だった。
親は、安定した職に就くか結婚して落ち着け、とも言ってくる。
全部が圧し掛かる。
逃げ場はどこにもなかった。
ネットゲームにすらも頼れなくなったとき、友が出来た。
その人の顔も名前も何もわからない。存在する人なのかもわからない。
それでも私は彼を信じた。
本当は虚像でも良かったのかもしれない。
ただ辛い現実を2時間だけ、忘れさせてくれるのなら。
-*-
2006年7月6日。
私とTARさんのチャットはまだ続いていた。
鍵付きのチャットルームで、TARさんは私を待ってくれていた。
『やあ、KIKKOさん』
彼は毎日少しずつ、小さな変化球を投げてくる。
それに私が答えると、彼は感情豊かに表現してくれる。
凍り付いていた心を溶かすように。
部屋の隅でうずくまる私を、外に連れ出そうとする光のように。
『こんばんは。TARさん』
『ノリが甘いな……One more time!』
どうして英語?と思いながらも私も負けじと策を練る。
そっちが英語なら私はインドよ!
『な、なますて!』
『どうして平仮名なの? いやしかし……』
そう、彼の変化球を私が受け止め、更に返す。
『ナマステは素敵な挨拶なんだから!』
『それはわかる。わかるけど、発想が可愛くて……』
TARさん曰く、彼の中ではインドの人々は助け合いの精神が強いイメージらしい。
この奥深い挨拶を唐突に叩き出す、それが私のユニークさなんだとか。
『だからKIKKOさんと話せる時間を待ってしまう』
『え、待っててくれてるの?』
『うん。メールでやりとり出来たらどんなにいいかって思うくらいだよ』
『本当に?』
『男に二言はない?』
『なんでそこで疑問形なの!』
『押すキーを間違えた』
でも……本気でメールアドレス教えてくれるの?
それって――。期待してしまう。TARさんも私と同じではないかと。
『ちゃんと真面目に言うね。俺とメール交換してくれませんか?』
『うん、喜んで!』
『……本当に良いの? 本当に?』
『ダメな理由が見当たらないです』
『ありがとう、とても嬉しい』
私は携帯のメールアドレスをチャット欄に書き込んだ。
するとTARさんから携帯にメールが届く。
『先にメアドを書かせちゃってごめん』
『先手を取っちゃった。でも同じキャリアだとは思わなかった』
『そうそう。どこでも繋がるのがいいよな』
彼は電波の話をしているだけだ。
それなのに、これからも繋がっていたい、そう言われている気がした。
嬉しいはずなのに、少し緊張する。
『ありがとう、TARさん。これからもよろしく、です』
『こちらこそ、よろしくね』
キャリアメールでの最初のやり取りは少しぎこちなかった。
自分に合わない職場だということはわかっていた。
やめればまた職探し地獄が始まる。
職がなければ年金が払えない。税金が払えない。滞納すれば恥ずかしい……。
立場のある社員は下の人間に失敗を押し付ける。
若い男性社員とうっかり世間話をすれば、他の女性から睨まれる。
雑務は増える一方だし、範囲外の仕事まで押し付けられる。
それでも嫌と言えない自分も。
そうせざるを得ない立場も環境もすべてが嫌だった。
親は、安定した職に就くか結婚して落ち着け、とも言ってくる。
全部が圧し掛かる。
逃げ場はどこにもなかった。
ネットゲームにすらも頼れなくなったとき、友が出来た。
その人の顔も名前も何もわからない。存在する人なのかもわからない。
それでも私は彼を信じた。
本当は虚像でも良かったのかもしれない。
ただ辛い現実を2時間だけ、忘れさせてくれるのなら。
-*-
2006年7月6日。
私とTARさんのチャットはまだ続いていた。
鍵付きのチャットルームで、TARさんは私を待ってくれていた。
『やあ、KIKKOさん』
彼は毎日少しずつ、小さな変化球を投げてくる。
それに私が答えると、彼は感情豊かに表現してくれる。
凍り付いていた心を溶かすように。
部屋の隅でうずくまる私を、外に連れ出そうとする光のように。
『こんばんは。TARさん』
『ノリが甘いな……One more time!』
どうして英語?と思いながらも私も負けじと策を練る。
そっちが英語なら私はインドよ!
『な、なますて!』
『どうして平仮名なの? いやしかし……』
そう、彼の変化球を私が受け止め、更に返す。
『ナマステは素敵な挨拶なんだから!』
『それはわかる。わかるけど、発想が可愛くて……』
TARさん曰く、彼の中ではインドの人々は助け合いの精神が強いイメージらしい。
この奥深い挨拶を唐突に叩き出す、それが私のユニークさなんだとか。
『だからKIKKOさんと話せる時間を待ってしまう』
『え、待っててくれてるの?』
『うん。メールでやりとり出来たらどんなにいいかって思うくらいだよ』
『本当に?』
『男に二言はない?』
『なんでそこで疑問形なの!』
『押すキーを間違えた』
でも……本気でメールアドレス教えてくれるの?
それって――。期待してしまう。TARさんも私と同じではないかと。
『ちゃんと真面目に言うね。俺とメール交換してくれませんか?』
『うん、喜んで!』
『……本当に良いの? 本当に?』
『ダメな理由が見当たらないです』
『ありがとう、とても嬉しい』
私は携帯のメールアドレスをチャット欄に書き込んだ。
するとTARさんから携帯にメールが届く。
『先にメアドを書かせちゃってごめん』
『先手を取っちゃった。でも同じキャリアだとは思わなかった』
『そうそう。どこでも繋がるのがいいよな』
彼は電波の話をしているだけだ。
それなのに、これからも繋がっていたい、そう言われている気がした。
嬉しいはずなのに、少し緊張する。
『ありがとう、TARさん。これからもよろしく、です』
『こちらこそ、よろしくね』
キャリアメールでの最初のやり取りは少しぎこちなかった。