ピカレスクに心酔
ロマネスクに紅涙
1
「一番苦手なの、朱南かなあ、私は」
一月、真冬の廊下は寒い。教室の中から聞こえてきた話し声に、ますます体の芯が冷えていくのを感じた。
「あー……まあそれはバレー部のみんなそうじゃない?」
「部長決める時さ、朱南一択みたいな感じだったじゃん。あれ先生の推薦だって聞いた」
「そりゃね。毎日顧問に媚び売ってたらそうなりますわ」
その日は放課後、委員会があった。冬休み明け最初の集いで、いつもより少し早く終わったのだ。
部活も休みなのでそのまま帰路につこうとしたけれど、机の中にプリントの入ったクリアファイルを忘れてきてしまったことに気が付いた。
教室に戻ってドアに手をかけた時、中から話し声が聞こえて留まった。
クラスメートであり、部活仲間でもある三人の話し声。いつも一緒にご飯を食べたり、ふざけ合ったりする仲。躊躇なく中に入っていければ良かったのに、その時は尻込みしてしまった。三人の声のトーンが暗かったから。
ううん、違う。多分、もっと前から薄々感じていた。何となく、私だけ居場所がないこと。
そうして立ち尽くしている間に、三人の会話には私の名前が登場した。
分かっていたような気もする。それでも、分かりたくなかった。
「この際だから言うけど、朱南の『私、みんなのために頑張ってます』感すごい無理なんだよね」
< 1 / 75 >