ピカレスクに心酔
言いつつ相手の腕を引いて勝手に歩き出すと、背後から慌てたような抗議の声が上がる。
「えっ? どこ行くんですか? 離してください!」
体育館を出たところで、聡い彼女は行き先を理解したらしい。俄然抵抗を強めてきたけれど、残念ながら私はか弱い女の子ではないので無駄だ。
「朱南先輩! もう、そんな細いのにどこからこの馬鹿力湧いてくるんですかっ!」
「まあまあ。いいから大人しくしてなさーい」
保健室のドアを開ければ中は無人だった。珠々子を半ば強引に椅子へ座らせ、保冷剤を探す。
「別にわざわざ連れてくることないじゃないですか。練習の時間が減ります」
「だって思いっきり顔面で受けてたんだよ? 跡が残ったらどうするの、死んでも死にきれないよ私」
「呪ったりしませんのでご心配なく」
つん、と横を向いた彼女が突き放すような口調で腕を組む。
珠々子はしっかり者だけれど人に甘えることが苦手で、第一印象はきつい子だと思われやすい。バレー部に来た時も、最初は周りと上手くやっていくのに苦労していたようだ。
そんな彼女を放っておけずによく構いに行っていたのは紛れもなく私自身だった。
『馬鹿にしてるんですか?』


