偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「……まあ、そうだけど」
「なんでですか!? あの博洋堂勤務で、仕事できて、顔もよくて、しかも片瀬さんにめちゃくちゃ優しかった相沢さんを!? 何があったんですか、浮気? まさか浮気されたんですか?」
もう浮気しかないでしょう、という感じで彼女は言う。
それ以外でも別れる理由はいくつでもあるだろうが、これをこの場で言う気にはならない。
しかも、仕事でこれからも顔を合わせるかもしれない相手のプライベートなことなど余計だ。
「なんでなんでって、もういいでしょ。それより私、このあとグランシエルとの打ち合わせだから行くね」
「えー、そこまで聞いたら気になるじゃないですか。片瀬さん、あとで絶対教えてくださいね!」
「気が向いたらね。じゃあ、部長、お先に失礼します」
「ああ。打ち合わせ、よろしく頼む」
これ以上ここにいれば三原さんに何もかも聞き出されそうで、私は逃げるように会議室をあとにした。
だけど、ドアを閉める直前、なぜか久世部長がこちらを見ていることに気づき、まだ何か仕事の話でもあったのだろうかと一瞬足を止めかけた。
けれど、部長はすぐに手元の資料へ視線を戻したので、私は深く考えることもなくその場を離れた。