偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
ケースが開く。中には、光を受けてきらきらと輝くダイヤの指輪が収まっていた。
「……婚約指輪?」
「そう」
慧さんが笑う。
「最初は偽物だったけど、今度はちゃんと本物の――正式な婚約者になってほしい」
最初は相沢さんから逃げるためについた嘘。
その場を乗り切るためだけだったはずの偽りの関係だった。でも――。
「悠里、俺と正式に婚約してくれ」
「偽じゃなくて?」
「今さら偽物に戻すつもりはないよ」
「期間は?」
「ない。一生」
即答されて、胸の奥が熱くなる。
慧さんの指先が、私の左手にそっと触れた。
「それに俺は、悠里との関係をもう終わらせる気はないから」
「……はい。私も、終わらせる気なんてありません」
私は自分から左手を差し出した。
慧さんがたまらなく嬉しそうに笑う。
「じゃあ、つけてもいい?」
「はい」
返事をすると、慧さんはケースから指輪を取り出し、私の左手を大切なものに触れるようにそっと支えた。
そして、薬指にゆっくりと指輪を通していく。
驚くほどぴったりだった。
「……ところで、なんでサイズ知ってるんですか?」
「毎日触れてないところがないくらい触れてるんだ。わかるだろう」
あっさりと恥ずかしいことを言われている気がする。
恥ずかしさをごまかすためにも、左手を少し持ち上げた。指輪はきらりと輝く。
それを見て、二人の笑みが重なった。
「悠里。愛してる」
「……私も、愛してます」
答えた瞬間、慧さんが立ち上がり、そのまま強く抱きしめてくる。
私も彼の背中へ腕を回し、胸元に頬を寄せた。
彼は本当の婚約者で、これから先も一緒に歩いていく人。私もずっと一緒にいたい人だ。
そのあと改めて二人で、本当の婚約に乾杯して飲んだビールは、私のこれまでの人生で一番おいしかった。
〈完〉


