偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
勢いに任せて言い切ったものの、当然ながらそれだけで理玖が「そうだったのか」と納得してくれるはずもない。
理玖は、私と久世部長を交互に見比べながら訝しげに眉を寄せた。
「……本当に付き合ってるんですか? だって悠里はさっきまで婚約者が誰なのかも言えなかったんですよ」
「悠里が言いたくなかっただけでしょう。少なくとも社内では公表していませんから」
部長が私の名をあっさり読んだことに驚きながら、さっき私も彼の名を呼んだことを思い出す。
私たちはこういうときには妙に腹が座っているようだ。
隣に部長がいると、やけに安心感があるのは、仕事でのこれまでの経験のせいかもしれない。部長が隣にいるだけで安心してプレゼンや発表などはうまくいくことが多かった。機転もよくきいたものだ。
「でも、あなたは悠里の上司ですよね? いつから付き合ってるんですか?」
「それをあなたに説明する必要がありますか?」
「あるでしょう。三年付き合った元彼なんだから、本当に悠里が結婚する相手なら、俺だって知る権利くらい――」
「ありませんよ。元恋人なら、なおさら」
淡々と言い切った久世部長に理玖が言葉を詰まらせた。
私も隣で思わず彼の横顔を見上げる。久世部長はいつもの仕事中と変わらない表情をしている。