偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
言ったけれど、よりにもよって直属の上司に拾われるなんて思っていなかった。
しかも、普段は仕事以外のことなどほとんど話さない、プライベートな一面など決して見せないこの人が、なぜ突然こんな大嘘に乗ってくれたのかもわからない。
だけど。
――本当に困った時には、助けの手を差し出されたら迷わず掴め。
そうだ。今はそれでいい。
久世部長が何を考えているのかなんて、あとでいくらでも聞けばいいのだから。
「そういうことだから、理玖」
私は久世部長のすぐ隣まで一歩踏み出すと、ほんの一瞬だけ迷った末、その腕に自分の腕を絡ませた。
突然触れた私に久世部長がわずかに目を見開いたのがわかったけれど、振りほどかれることはない。
それどころか拒否の色は見せない部長の温もりに勇気をもらって、理玖をまっすぐ見返す。
「久世さん……じゃなくて、慧さんが私の婚約者なの。私たち、本当に結婚するから」