偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!

 そこに立っていたのは思いもしなかった人物――私が勤務する高遠ホスピタリティ営業企画部の部長であり、直属の上司でもある久世慧だった。

「……久世、部長?」

 どうしてここに、と驚いている私には目もくれず、久世部長はまっすぐ理玖へ視線を向ける。
 普段の仕事中と変わらない冷静な表情のまま私たちのそばまで歩み寄り、その視線を受けた理玖がようやく私の腕を離した。

「いくら上司でも、これは俺と悠里のプライベートな話です。あなたには関係ないでしょう」
「ありますよ」
「は?」

「ずいぶん熱心に俺の婚約者を口説いているようなので、さすがに関係ないとは言えません」

 淀みなく言い切られた言葉を理解するまで数秒かかり、理解しても私は久世部長の端整な横顔を呆然と見上げるしかできなかった。
 しかし、彼は冗談を言っている様子など微塵もない顔をしている。

「婚約者って……あなたが?」
「ええ。俺が、片瀬悠里の婚約者です」
「でも悠里はさっき、ものすごくラブラブだって――」

「それも事実です」

 きっぱり。しかも一切の躊躇なく断言した久世部長に、今度こそ私は目を見開いた。

 ちょっと待って、久世部長。そこまで言いました、私?
 ……いや、確かに言ってたな。
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