偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「……言ってないのか?」
「え?」
何を、とは言わなかった。
けれど、その一言を聞いた瞬間、両親の表情が明らかに変わる。特に母の目などは、恋愛ドラマで重大な秘密が明かされる直前のようにきらきらと輝き始めた。
何言ってるの! 部長!
「な、え……ちょっと待ってください。なんで両親にまで――」
「久世部長、すみません。少しよろしいでしょうか」
私が慌てて止めようとしたそのとき、タイミングがいいのか悪いのか、ホテルのスタッフから部長が声をかけられた。
久世部長は「今行きます」と返事をすると、最後にもう一度私たちへ向き直った。
「すみません、仕事中で少しバタバタしていて。せっかくご挨拶できたのに申し訳ありません。また改めて、時間を取ってぜひ」
「ええ、もちろん! ぜひぜひ!」
「ちょっと、お母さん!」
「それでは、失礼します」
にこやかに一礼した久世部長は、そのままスタッフと一緒にロビーの奥へ消えてしまう。
あとには目を輝かせた両親と、とんでもない爆弾だけ落としていった上司を呆然と見送る私だけが残された。