偽りの婚約者さまは、この関係を終わらせる気がない!
「夏のグランシエルのファミリープラン、最終的な数字が出たが、予想をかなり上回ったそうだ。片瀬、これは社長賞も狙えるかもしれないぞ」
「本当ですか? ありがとうございます。去年より予約数を伸ばしたいとは思っていましたけど、そこまでとは思っていませんでした」
「企画だけじゃなく、広告の打ち出し方から集客方法まで細部までよく詰めたからな。現場からも評判がよかったと聞いているし、これは胸を張っていい成果だ」
会議の終わりごろにそんな言葉をかけられ、思わず頬が緩みそうになるのを堪えながら頭を下げると、久世部長はいつもの落ち着いた表情のまま次の資料へと目を落とした。
この人は部下がきちんと成果を出したときには惜しみなく褒めてくれる人だ。だから、認めてもらえたことが素直に嬉しくて、次も頑張ろうという気にさせられてしまう。
彼は久世慧、三十一歳――高遠ホスピタリティ株式会社営業企画部の部長で、異例とも言える若さで現在のポストに抜擢された切れ者だ。
普段は冷静沈着で仕事にもかなり厳しい一方、結果だけではなくそこへ至るまでの努力も見ていて、小さな成果や成長でさえ決して見逃さないで褒めてくれる。
だからこそ部下からの信頼も厚いし、私自身も久世部長に褒められるとつい嬉しくなってしまう。それがまた仕事を頑張る理由のひとつになっているのだから、我ながら単純だと思う。まぁ、同じ部の他のみんなも一緒だからみんな単純か。
そんなわけで、我が営業企画課は久世部長就任以来、ずっと対前年比プラスの成果を上げ続けていて、部全体として社長賞も何度もとった実績がある。