arch
空席の彼
 ……翌朝。
 私はいつもと違う景色に戸惑っていた。
 私の席はいつも通り。両隣も。ただ、黒板が見にくいのと、配られるプリントに前の前の席の子とかわりばんこで立ち上がらなくて良くなったことだ。

そう……槇野くんが来ていた。
 クラス中が表向きはいつも通りだけど、意識は彼の方へ向いていたと思う。
私について言えば、彼の後ろの席だもので意識どころか身体も全部彼の方を向いていた。顔は見えないけれど、背が高いのはわかる。

 何も言わず、後ろも振り向かず肘を曲げて差し出されるプリントを受け取るだけだ。何となく彼の差し出したプリントを手早く取った。……少し怖いと思う感情だった。

その日、私が見る限り槇野くんが誰かに話し掛けてる姿は見なかった。
午前中こそ誰かがぽつり、ぽつり、彼に話し掛けていたが、後ろの席の私でさえ彼が話していた声は聞き取れ無かった。

ずっと、その席にいたと思う。お昼休みはどこかへ行ってたのか……ずっと一人でいた。彼が望んでそうしたのか、それとも……。
 だけど、この日、彼は早退したりもせずにずっと教室にいた。

 帰り際、立ち上がった彼に、何か話しかけなければと思ったのは、彼がクラスに馴染めるように気を遣ったのか、それとも同情したのか……
 わっ。立ち上がると思ったよりずっと背が高い。
 すぐに行ってしまいそうなことにも、それから私の正面を初めて向いたことにも動揺して

「ま、槇野くん!」
 思わず呼び止めてしまった。
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