arch
正直、こんな背の高い人は見たことがなかったと思う。
そして、大きな声を出してしまったことで帰りがけのクラスメイトたちは、足を止めてこちらを伺っている。

見つめ合うこと数秒は随分と長く感じた。

「何」
低い声。それから無表情も手伝ってより一層怖く感じた。

「あ、あの、し、身長……何センチ……?」
背の高い彼の耳まで届いたかどうか、その程度の声だった。
彼は、前髪越しに切れ長の目を訝しげに細めると
「知らない」
そう言い切るまでには、私の横を大股で通り過ぎたいた。
思わず、目を瞑り、ひっと小さく息を飲んだ。彼の足音が遠ざかり教室から出た頃になってようやく息を吐けた。

「ちょ、大丈夫~?」
「どうしたの、急に。何で槇野に話しかけたの?」
「わからない」
へなへなと私はもう一度、椅子に座り直した。
わからない。何で呼び止めちゃったんだろ。

「勇気ある~」
「槇野、こわー」
誰かがそう言って教室を出ていった。
この日初めて登校した槇野くんの印象は“怖い人”だった。
私だけじゃなく、みんな……そうだったらしい。

「でも、ほら、イケメンだったでしょう?」
由紀恵が呑気にそう言って笑った。
「怖くて、それどころじゃなかったよ」
私は腕を擦ってそう言った。
さらりと顔にかかった髪と、そこから見えた目はとても綺麗なものだった気がしたけれど
なぜだかそれを声に出す気にはならなかった。誰にも教えたく無いような、誰も気づかなければいいなんて、そんな感情が胸を掠めたが、あまりに微かで自分でも見過ごすくらいのものだった。
< 11 / 36 >

この作品をシェア

pagetop