arch
「んじゃ、唯ちゃん空いてんの?」
 ……単純に訊かれただけだと思う。誘われたわけじゃないと思う。空いて……るのか?別に槇野くんとは、河川敷で会う約束しているわけじゃない。《《私が好きで》》毎日通っているだけだ。山地くんの向こう、槇野くんが体を斜めにして、何を言うわけでもなくこちらをじっと見ていた。
どうしよう。今日も来るのかと思われるのか、もし……これが山地くんの誘いなら……

「用事、あんの?」そう訊いたのは槇野くんだ。山地くんから自分の顔が見えないのを良いことに、ちょっと笑ってる。“どうすんの”って言われてるみたい。何か悔しい。だから、“ないよって”言う。つもり……。
「ある。今日、ほら、お使いいかなきゃ、卵安い日で一人一パック……」

 ちょうどチャイムが鳴って
「何だあ、残念」そう言って山地くんは席に戻って行った。

「お使い、大変だね。手伝おうか?」
 槇野くんが私にだけ聞こえる声でそう言うと、ふっと笑った。前を向いてしまったけれど、肩が小刻みに揺れている。

 何!?もう!!わかってるくせに、結構意地悪だ。今日、河川敷で絶対に文句言ってやる!!

 やっぱり……河川敷は行くんだけど……。
 槇野くんの『用事』もその河川敷に行くことなのかな。山地くんの誘いに1回も来ない?どういうことだろう。私たちは約束はしていない……よね。



< 51 / 52 >

この作品をシェア

pagetop